2010.12/30 [Thu]
冲方丁『ストーム・ブリング・ワールド(2)』
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★★★★☆
えっ……、と……とりあえず、そっちっ、そのトカゲとかっ、やっ、やっつけてっ!
アーティミスを守るという密命を受けて「神殿」に遣わされた少年のリェロン。しかし、王宮の騎士団の卑劣な罠にはまったリェロンは処刑されてしまう。失意の底に叩き落とされたアーティミスを立ち直らせたのは、残されたリェロンのカルド“グリマルキン”と学童たち。そしてアーティミスは街を救うため、仲間とともに立ち上がった――。
「ストーム・ブリング・ワールド」第2作。下巻です。
本領発揮は2巻から。前巻の終わり方からして容易に想像できる展開が待っているのですが、それを伏線にして著者がさらにもうひとつ仕掛け打っていたのにはまんまとやられました。聡くない私は一瞬、状況を呑み込めないという体たらく。これはミステリとしても充分成立しています。
物語も終盤に向けてどんどん盛り上がる。アーティとリェロン、ふたりは過去に決意から“本当の自分”を封じ込めてしまった点では似た者同士であり、それでいて選んだ道はまったくの真逆。片や涙を流さぬと決めたことでそれを乗り越え、もう一方は涙ですべてを洗い流すことで乗り切ってきた。泣くことを止めた少女が再び涙を流すとき、笑うことを忘れた少年に穏やかな微笑みを呼び起こす。決して一方的でなく、アーティが心の枷を外すことにより、リェロンの凍った心も氷解する――これをまったく同時に、自然な流れでやってしまうのには恐れ入ります。
絶体絶命の瞬間に覚醒するアーティ。なるほど、ミステリとは違うこの高揚感がファンタジーの醍醐味なのか。それでいて超絶強くなってカッコ良く大逆転を決めてくれるのかと思ったら、意外とテンパっててしどろもどろで。冲方丁ほどパニクってる女の子のセリフを書くのが上手い人、見たことないです。可愛すぎるでしょ、アーティ。
ふたりが新たな一歩を踏み出して「ストーム・ブリング・ワールド」は終結。アーティもリェロンも好きだっただけに、これで終わりかと思うと少し寂しいです。うーん、続き書いてくれないかな。
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