2010.12/28 [Tue]
齋藤智裕『KAGEROU』
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★★☆☆☆
廃墟と化したデパートの屋上遊園地のフェンス。「かげろう」のような己の人生を閉じようとする、絶望を抱えた男。そこに突如現れた不気味に冷笑する黒服の男。命の十字路で二人は、ある契約を交わす。肉体と魂を分かつものとは何か? 人を人たらしめているものは何か? 深い苦悩を抱え、主人公は終末の場所へと向かう。そこで、彼は一つの儚き「命」と出逢い、かつて抱いたことのない愛することの切なさを知る。
巷で話題の水嶋ヒロの処女作『KAGEROU』を読みました。発売当初、Amazon のレビューで調子に乗ったねらーによる出張悪ふざけが加熱。冗談とも本気ともつかない酷評が乱立したためすっかり駄作扱いされている本書ですが、いざ手に取ってみると言われているほど酷くはなかったです。
ただ、全体に書き込みが足りないのは確か。愛することがどうのとヤスオが語るくらい、アカネとの交流が大きなものだったようには全然見えないし、最後の展開ではキョウヤの存在に対する踏み込みもいま一歩。結末に関しては中盤でもきちんと伏線を張っているのに、そこで為される“人間が人間であるということ”についての葛藤・問答が話に生きてきていません。哲学ちっくな問題提起は面白いので、要素、要素をもう少し丁寧に拾って深めていけば良かったかなぁと思います。
下手したらブラックな方向に傾倒しそうな設定でありながら、描かれている世界は非常に優しく純粋で、善意に溢れているのは素直に驚き。考えてみれば、表紙からして汚れひとつ付けられないような真っ新でした。下手にエンタメで濁さずに真っ向から説いてくるあたり、著者の「伝えたい」という真摯な想いが感じられます。
私が読んだのは第5刷だったので例の修正シールは拝めず。検索してみたら、期せずして作品内容とマッチした最高の演出になっていたんですね(演出といえば29pのアレもGJ)。結局、出版社側がミスだったことを認めたのは残念ですけれど、それが奇跡的に作品の質を向上させることに繋がっていたのがすごい。小説の神様が微笑んだのか!?
もう一点問題視されているオヤジギャグはオチをわかりやすくするために必要な設定だったので可。最後の最後でこれでもかと印象付けたのは失敗でしたが。ああいうのはさらっと、さも何でもないふうに書くのが効果的なんです。ミステリ読みの意見を言わせて貰うと。
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