2010.12/25 [Sat]
映画『相棒 -劇場版Ⅱ- 警視庁占拠!特命係の一番長い夜』
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★★★★☆
敢えて言うならば、警視庁史上最大最悪の人質籠城事件といったところでしょうか
警視庁本部内で前代未聞の籠城事件が発生。人質は田丸警視総監、長谷川副総監をはじめとした幹部12名。現場となった会議室は機動隊とSITによって完全に包囲されるが、犯人の動機は不明。いち早く事件に気付いたのは、偶然にも犯人の男と遭遇した神戸尊とその連絡を受けた杉下右京。右京は会議室内の様子を把握することが肝心と、鑑識の米沢守や元特命係の陣川公平の協力を得て、誰も予想しなかった奇策に出る。やがて籠城犯が元警視庁刑事の八重樫哲也だと判明するも、捜査の外に追いやられてしまう特命係。ふたりは籠城前に尊が八重樫から助け出した女性が総務部の朝比奈圭子であることをと突き止める。そんな時、緊迫する会議室内から2発の銃声が! 右京の強固な反対を余所に強行突入が敢行され、人質は無事保護されるが、犯人の八重樫は心臓を打ち抜かれて絶命していた。大河内監察官の聴取に対しても曖昧な証言しかしない12名。皆が一様に口を閉ざすことに疑問を持った右京と尊は、角田課長らの協力を得て独自に幹部たちへの聞き込みを始めるのだった。 (2010年 日本)
うおおおおぉぉい!!!
マジかスタッフ!! 本気でそれ、やっちゃうんですか!?
「相棒」劇場版 第2作。スピンオフ含めて3作目です。
あんなのを見せられたら観に行かないわけにはいかない。
――ということで昨日公開2日目。行ってきましたよ、クリスマス・イブ。ひとりで。
スマッシュヒットを飛ばし、世間様に『相棒』の名を知らしめてその地位を盤石なものとした劇場版 第1作とは打って変わって、今作は限りなく地味な内容。表題にある警視庁占拠の人質籠城事件も早々に片が付き、そこから先は死んだ八重樫はいったい何が目的だったのか、何故そこまでの事件を犯したのかを探る物語へと移っていきます。
この、あまりにも地道で派手派手しさとは掛け離れた内容、怖らく『相棒シリーズ 鑑識・米沢守の事件簿』と同じで一般ウケするかどうか微妙なところではないでしょうか。本編を数話程度しか見ていない人からすると、たぶん退屈極まりない。しかし『相棒』を長年見続けてきたファンであれば誰もが衝撃を受け、そして納得させられる作品であることはまず間違いありません。これはそういう映画です。
製作陣が、ファンの評価が芳しくなかった前作はあくまでも門戸を広げるための入門編であり、今回は完全にコアなファン向けと言っていただけのことはある。本作に限っては素人なんてお呼びじゃない。
というか厳しいことを言っちゃうと、百何十話もあるテレビドラマの劇場版(それも2作目)を予備知識程度で見に行こうというのがそもそも間違い。何も知らなくても楽しめるのが本当に素晴らしい映画だという考えがあるのなら、その逆に深く知っていなくては楽しめない映画というのも存在するわけです。テレビドラマの映画化だもの、余計にそうです。
「映画が『相棒』を変える」のキャッチフレーズに嘘偽り一切なし。この作品が『相棒』という物語の大きなターニングポイントになったことは疑う余地もなく。
もしまだ未見の『相棒』ファンの方がいたら、何も情報を入れず、一秒でも早く劇場へ足を運ぶことを強くお勧めしておきます!
(それじゃあ、そろそろネタバレます)
官房長、本当に死んじゃったよ!! 薫ちゃんのサルウィン行きといい、瀬戸内さんの逮捕といい、『相棒』スタッフは容赦ない。そしてその容赦のなさこそ私が『相棒』製作陣を信頼している一因でもあります。
小野田官房室長は 1st の頃からの超重要キャラで特命係の前身、緊急対策特命係を創設した人物。時に特命係と対立し、時に表沙汰にできない事案を持ち込み、右京さんとは常に互いを利用し合ってきた間柄です。また、特命が潰されそうになったときに何度か反対勢力に待ったを掛けており、特命係が暴走し、ある程度以上の自由が与えられていたはまさしくこの人の思惑と後ろ盾があったからでしょう。裏を返せば、今後特命係が大きな“反逆”をやらかした際には、鶴の一声でその場を収めさせる可能性を持つ人間がいなくなるわけで。最悪、永久解散も充分有り得ます。
今回の劇場版、果たして官房長を殺す必要があったのかと疑問に思う人もいるかと思います。確かに物語としての必然性は薄く、その最期はドラマチックでも何でもなく、いともあっさりと死んでしまいます。ならば単なるエポックメイキングのために殺されたのか? 私は違うと思います。
つまり、これは因果だったのです。かつて警察組織の事情のために無為に命を落とした磯村栄吾、今回その原因を作った人物を暴こうとして殺された八重樫哲也。そんなことがあっても事件はなあなあのうちに処理され、幹部連中には誰ひとりとして彼らの死を悼む心はない。あまつさえその事件を利用してしまおうと考える輩までいる。守るべき市民をおいてきぼりにして暴走してゆく警視庁と警察庁の対立構図の捌け口、末路として小野田官房長の死があり、それをけじめとしてひとつの決着をみたとも読めます。
官房長殺しの動機が大それたものではない“ありふれた殺人”であることがまた、一連の出来事の非生産性を象徴していました。
そして本作はラストが圧巻。たとえ官房長の遺志に反しても自分の正義を貫くことこそが彼への餞であると言う右京さんが、真実を白日の下に晒すために残された可能性――逮捕された三宅部長の証言を取り行くところで どんっ!! と“相棒”のタイトルロゴが出て終了。劇場に響く重低音は右京さんの揺るがぬ信念の強さであると同時に、この先に待ち受ける障害の大きさ、それと闘う覚悟の重さを表しています。たとえ証言が取れたところでそれも握り潰されるのが関の山。この事件の真相が日の目を見ることは絶対にないでしょう。だからこそ強制終了を思わせるタイトルロゴで幕なのでした。決して投げっぱでも、次回へ続く、でもありません。
そんな官房長と右京さんのドラマがある一方で、神戸君も大河内さんと衝突します。監察官の立場にいることから庁内で嫌われている大河内さんと唯一親しく接しているのが神戸君です。このふたりがどういった関係なのかは謎のままですが(例の秘密を髣髴とさせる悪ノリが過ぎてシャワーシーンとかあるんですよ……やめぃ)それでもあれだけ親しくしているのは、神戸君も大河内さんを大いに認めているからだと思います。
が、今回は大河内さんが上層部の意に沿った真実を曲げる動きをしたために大激昂。相手の運転する車の前に立ち塞がって正義の意味を問い詰める。普段からクールを装っている神戸君だけにこういった熱い挙動は珍しかったですね。これが、神戸尊が変わった瞬間なのだとか。
モールス信号を持ち出してくるのは、ミステリとしてはちょっといまさら感が無きにしも非ずですけど、伏線としてはセーリング部の件共々、上手に紛れさせていました。あの状況だと仮に観客がモールスを打っていることに気付いても、外部に助けを求めているだけのようにも見えるんですよ。前作『劇場版』の伏線“袋を折る癖”は映し方があざと過ぎて大変萎えたのでこれには満足。
『劇場版』より『鑑識・米沢守の事件簿』が、『鑑識・米沢守』よりも本作が。
「相棒」劇場版シリーズ、作られる度に確実にレベルアップしています。
PS.右京さんのカメラ男には思いっきり笑いました(映画館だけにね!)
シュールすぎる。盗撮 ダメ、ゼッタイ。
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