2010.12/18 [Sat]
古野まほろ『群衆リドル Yの悲劇 '93』
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★★★☆☆
それもまた、正義のかたちだから
浪人中の「元女子高生」渡辺夕佳のもとにとどいた、〈夢路邸〉内覧パーティの誘い。恋人の東京帝大生・イエ先輩こと八重洲家康と連れだって訪れたそこには、個性的でいわくありげな招待客たちが集まっていた。ひた隠しにされる過去の罪業と、どすぐろく渦巻く殺意の気配を引き連れて。雪の山荘。謎めいた招待状。クローズドサークル。ダイイング・メッセイジ。密室。生首。鬼面。あやつり。見立て。マザー・グース。そしてもちろん、名探偵。
わが愛する作家・古野まほろの復帰作!!
元ネタのエラリー・クイーン『Yの悲劇』、有栖川有栖『月光ゲーム』は共に未読。
新たなまほろはここから始まるといわんばかりに、オビには「まほろ、再起動」の文字が踊ります。そう、本作は講談社となんやかんやあった後の仕切り直しの1冊であり、初のハードカバー。そういった意味でも非常に重要な位置づけの作品で、ひいてはいままで限定的であった購買層の拡大に向けた大切な一手です。
なので今回は良くも悪くもまほろ節は抑え気味。語り部も「天帝」シリーズのまほや「探偵小説」シリーズのあかねんのようにはっちゃけた性格ではない普通人なので文章は普通に読みやすい。片仮名ルビもほぼ皆無。人外とのバトルもなし。「はふう」も「うげらぽん」も至極控えめです。
謎解きもいつものような証拠の積み重ねから公理を導き出し、それを基に論理を組み上げていくロジック至上主義の独特なスタイルとは少し趣が違う。密室てんこ盛りの事件、いかにもな舞台装置と殺人事件の演出……霧舎巧が書きそうな超正統派新本格を古野まほろで書いてみました、といった感じでしょうか。
決してミステリとしての水準は低くはないのだけど、いつものまほたんを期待しているとちょっとばかし外されます。とはいえ、いままであまりの悪文に他人に勧めに難かった「古野まほろ」を、まずはこれを読んでみてと差し出すのに最適な本ができたことは喜ばしい限り。過度な装飾がなくたってまほろはまほろ。やっぱり本文はそれとわかるくらいには特徴的です。
“共犯者”については賛否がわかれそうなギリギリなライン。不可能じゃないと思うけれど、個人的には手放しで納得はできませんでした。逆に、最後の死体を目にしてのイエ先輩とユカの会話は至高界(メタレヴェル)に上手く誤導が効いていますね。あれにはまんまと惑わされました。いや、“嘘は言ってない”し。
副題の「Yの悲劇'93」からもわかるとおり、本書も舞台はあの世界観のあの時代。ユカとイエ先輩は勁草館の卒業生。真犯人“My fair lady”の思わせぶりな独白からも「天帝」とのリンクがちらほらと見え隠れします。というか東京駅テロって《感染》の仕業だよね?
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