2010.12/10 [Fri]
青柳碧人『千葉県立海中高校』
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★★★★★
海流発電を活用した新都市計画で、東京湾の海底に千葉県海中市は作られた。それから20年が経過。海の中で生まれ育った夏波たちも、普通の高校生と同じような青春を送っていた。だが、次第に感じる陸上との距離は、心にまで及んでくる。そんなとき、海中都市が数年で消滅するという事実を知って……。
「浜村渚の計算ノート」の青柳碧人の著作第2作にしてノンシリーズ長編。
著作第3作『浜村渚の計算ノート 2さつめ』の出来にかなりの感銘を受けて図書館で借りてきたのですが、私はどうやら認識を誤っていたようです。『千葉県立海中高校』の時点で既に神作品だった。
どのくらい神作品だったかというと、図書館で借りてきたにも関わらず、途中まで読んだ段階で本屋に駆け込んでわざわざ自分用を買ってしてしまったくらい。読んでいてこんなにももどかしい。胸が詰まる。何度も、何度も読み返したい。もうこれはマイベスト10に入れても構わないですよね?
――そういうわけで『千葉県立海中高校』。小説マイベスト10の第8位に決定します!!
物語は高校で化学教師をしている牧村光次郎のもとへ、ひとりの女子生徒が校内新聞の記事依頼にくるところから始まります。テーマは「先生たちの青春」。取り立てて生徒に人気があるわけでもない、つまらない教師になぜそんなお鉢が回ってくるのかと訊ねると、彼女は「先生の通っていた海中高校について知りたい」と答える。その返事に納得して引き受けてはみたものの、どうにも上手い具合に仕上がらない。すると彼女は、自分がインタビューをして記事に起こすので質問に1週間取材させてほしいと申し出る。
――そして舞台は過去、在りし日の海中市。県立の海中高校に通う2年生・木口夏波は友人と遊んで人生で初めての彼氏ができて、生まれ育った海中市が大好きで。そんな青春を謳歌する女の子の視点で語られます。
ここで「あれ?」と思ったのが、過去編にはしばらく“牧村光次郎”の名前が出てこないこと。それもそのはず。この物語は夏波が一風変わった牧村先輩に出逢ったことで始まるボーイ・ミーツ・ガールもといガール・ミーツ・ボーイ。牧村光次郎というよくは知らない上級生にだんだんと惹かれていく夏波の所為がいちいちツボです。この距離感、実に少女マンガ的でいかにも青春だよねー。甘酸っぱい。
しかしそこはガール・ミーツ・ボーイ。彼と出逢って少しずつ変わってきた夏波の“世界”は、ある日突然の終焉と崩壊を迎えます。海中市が滅びる。そう聞かされます。
冒頭時点で既に明かされていたその出来事。本作はSFですが、海中にある都市というのはなんともファンタジック。そして近未来の物語でありながらここまでのノスタルジーを感じるのは、やはり現在と過去の二視点から物語が進行しているからでしょう。
二度とは帰れないけれどかつて確かにそこにあった場所=青春の象徴として、いまは無き海中市があるわけです。でも物質的になくなってしまったからといってそれで終わりというものでもない。あの日あのときの想い出はいまも彼らの心の中に生き続けています。現在パートのラストで一度、過去パートの〆でさらにもう一度。確実に心打たれます。涙がじんわり溢れます。青春小説の最高峰です。
ふたりの迎える結末というのがまた何ともほろ苦。なんでだよぉ、って感じです。それでも後味は爽やかすぎるほどに爽やか。これほどまでに心に迫ってくるのは、やっぱりああいう終わり方だったからなんだろうな。
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感想
青春の作文に青春の夏波。ほろ苦い中にも最後の救いは欲しかったです。登場人物には胸が苦しくなるやりきれなさが残っていないのに読者にはあるなんて。
いつもパソコンで作業している内容がシュミレーションであり、夏波の助けになる。再会しなくても繋がる。みたいなベタでもハッピーエンドが欲しかったかなと。
後に迫っている結婚を牧村先生が止めたら意思が揺らぐかもしれないほど夏波自身に気持が残っているのに物語は終わってしまう。
上手くいきすぎなくてもいいから、せめて最後はすっきりしてほしかったなと思います。せめて海に飛び込んでいたとか。これぐらいなら少しは救われるかと。
世界観はリアルで素晴らしく、魚や空気の音など起伏のあまりない物語に対して上手く雰囲気を作り出しており、だらだらさせることなく良かったです。評価は◎。読んで良かったです。
私はハッピーエンドが好きです。やはりハッピーエンドを…(笑)
長くなり失礼しました。ネタバレがあるので消して頂いてもかまいません。