2010.12/04 [Sat]
伏見つかさ『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』
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★★★★★
なにが厨二病アニメよ。私はね、その漢字三文字で形成される単語が死ぬほど嫌いだわ。
ちょっとそういう要素が入っているというだけで、
作品の本質を見ようともせずにその単語を濫用して批判する蒙昧どももね。
俺の妹・高坂桐乃は、茶髪にピアスのいわゆるイマドキの女子中学生で、身内の俺が言うのもなんだが、かなりの美人ときたもんだ。けれど、コイツは兄の俺を平気で見下してくるし、俺もそんな態度が気にくわないので、ここ数年まともに口なんか交わしちゃいない。よく男友達からは羨ましがられるが、キレイな妹がいても、いいことなんて一つもないと声を大にして言いたいね(少なくとも俺にとっては)! だが俺はある日、妹の秘密に関わる超特大の地雷を踏んでしまう。まさかあの妹から“人生相談”をされる羽目になるとは――。
「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」第1作。
プロの積読家ともなると、友人からの頂きものも余裕で数ヶ月は積読いてしまうわけで(最低だ
そんなわけでテレビアニメも現在放映中、友人大絶賛のいま人気のライトノベル『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』を読了です。タイトルがタイトルだし、最近流行りの“ヲタクがテーマ”のライトノベルだし、で正直そこまで期待はしていませんでした――が。しかしです。これが、かなり感動してしまいました。
私もリアル妹がいる身だからなのか、桐乃に対する京介の行動がいちいち頷けます(もっとも、うちの場合は何年もまともに口を利いてない、なんて深刻な状況にはなってませんが)
さて、性格だけ見れば桐乃は最悪です。私はツンデレというキャラ付けが大キライで、自分勝手の自己中心主義でたまに大人しく恥らってればみんな黙るんでしょ、みたいな己の言動を省みないヤツらは一掃されればと良いのに、とすら思っています。
本作に登場する桐乃もその類に漏れず。むしろ相手が兄貴だから、と遠慮の「え」の字も知らずに横暴の限りを尽くす様は終始腹立たしい。1ミリだって可愛くない。
ところが、それこそが最大のポイント。桐乃がまったく可愛くないということは、決してキャラクターだけで読ませる小説ではないということ。そしてそんな桐乃が不器用ながらに奮闘するところを、惰性とはいえ付き合わされて見守ってきた京介。口で何と言おうが、普段どう思っていようが、そんな彼女の努力がすべて踏みにじられるようなことになったとき、黙って見過ごせるわけがないじゃないですか。それは性です。父親に父性があり、母親に母性があるように、兄貴には兄性があるのです。
この小説はそれが本当に良く描けています。正直なところ、私は昨今のヲタ事情にはまったく明るくないので文中にぶち込まれているらしいネタの数々は殆どがわからなかったり、気付かずスルーしているものも少なくありません。それでも面白い。全然、そんな“小手先の道具”に依ったつくりにはなっていない。家族の物語、それから兄妹のドラマとして、素晴らしい作品であると自信を持って言えます。
特に最後の一文は素晴らしかったです。タイトルにもなっているあの一文。あれは、単純に額面どおりの意味だけではないです。あの言葉は桐乃の実際的な可愛さに向けたものではなく、京介の自分自身への嘲笑であり、労い、そして照れ隠しです。兄妹間での会話がほぼゼロな状態が何年も続き、自分を「あんた」と他人のようにしか扱ってこなかった妹。その桐乃が「兄貴」と彼を呼び、「ありがとね」と礼を言う。どんなに憎たらしいことを言う妹でも彼女の口からそのひと言を聞けた。ただそれだけで、いままでの苦労がすべて報われた気がする。それは嬉しいとはまた別の感情で。
彼流に表現するなら「悪くない」――仕方ないな、ってやつですね。
こう書くとシスコンのように見られるかもしれませんけれど、世の中の兄貴なんて大体そんなもんです。たぶん。
そうそう。黒猫さんが作中で稀に見る名言を残してくれたので今回の引用文はそれ。
よくぞ言ってくれた! やつらの目を醒まさせてくれ!!
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