2010.11/21 [Sun]
古野まほろ『天帝のつかわせる御矢』
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★★★★☆
僕たちの瞳を褒めてくれた。理由とするには充分なそれは遺言じゃないか?
戦下の大陸を逃れ東京へ向かう超Q級豪華寝台列車、環大東亜特別急行「あじあ」。荘厳かつ絢爛を極めた客室で公爵夫人のバラバラ死体が! 年齢性別国籍が一切不明の間諜『使者』と接触する密命を帯びて当該列車に乗車していた頸草館高校3年古野まほろと柏木照穂の推理は?
『天帝』シリーズ 第2作。
やっと読み終わったー!
150ページ読んだところでなぜか3ヶ月ほど寝かせて別のものに手を出してました。なんだろ、『天帝』シリーズはいつも1度目はストレートに読了できない気がする。既にまほたんの悪文には馴れきっているのに……。
古野まほろの文章が読み手に格別の美しさを感じさせることは以前にも述べましたが、本作はその極致。利用客は宮様に公爵、将校などなど、どの乗客も2ヶ国語・3ヶ国語は余裕で喋れるのがデフォルトという、われわれ一般人からは想像もつかないような超豪華寝台特急の外装内装にまつわるあれこれが、絢爛豪華で装飾華美な文章によって見事に頭の中にイメージを浮かび上がらせてくれます。群青色ではなく、普魯西青色(プルシャンブルー)だもの。この瀟洒な空気感。他の作家ではこうはいかないでしょう。
『天帝』シリーズの特色である推理合戦も期待どおりクオリティが高く大満足。発表順でラスト2人がまほろと柏木の主人公勢に決まった時点で前の人たちの推理は必然的に外れてしまうんだろうな、とメタ推理を働かせてしまうのですけど、早くに発表した人たちがそれぞれの推理の過程で公理として定義していった事象を、積み上げ積み上げでまほが推理に生かしていくのでまったくムダには感じない。むしろ、別々の着想から各々が答えを見つけてきているにも関わらず、まるで最初から協力関係でひとつの推理を組み上げているようにすら思えてきます。実にスマートで綺麗な流れです。
この解決パートでは探偵小説で寝台特急ならアレしかない!という鉄板ネタをかましてくれる人もいて、そのときのまほの反応はミステリ好きにはニヤつかずにいられないハズ。探偵小説の神様的って――わかるわかる。
その探偵小説の神様がブチ切れそうな怒涛の展開が待ち受けているのは前回同様。いや、前回より酷いかもしれない。これによって『あじあ』号連続殺人事件の被害者総数がとんでもないことに。なんじゃこりゃあああ!!
ハイレベルなロジックでこれ以上ないくらいに本格している古野まほろですが、案外このシリーズは探偵小説と探偵小説的探偵の存在意義の根本を問うた作品群なのかも。
ちなみにこの『天帝のつかわせる御矢』は時系列でいうと『探偵小説のためのエチュード「水剋火」』の後に当たります。
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