2010.11/10 [Wed]
矢崎存美『ぶたぶたと秘密のアップルパイ』
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★★★☆☆
当たり前じゃないですか、そんなこと。
そんなに簡単にわかったら、みんな秘密なんか持ちません。
イラストレーター森泉風子は、不思議な会員制喫茶店への特別招待券を手に入れた。そこでは、誰にも話せない秘密をひとつ、店員に話さなくてはいけないというのだ。その店員というのが……見た目は可愛いぶたのぬいぐるみだが、中身は心優しき中年男・山崎ぶたぶただった。客たちはみな、ここで心の荷物を下ろし、新しい人生へと踏み出す勇気をもらってゆく――。
「ぶたぶた」シリーズ 第9作。
プロの積読家ともなると、シリーズものの続刊を2,3年平気で積んでいられるわけで。本作『ぶたぶたと秘密のアップルパイ』もそんな中の1冊。一応、弁解しておくとこのひとつ前にあたる第8作『夏の日のぶたぶた』が絶版になってしまい、そちらを入手してから……と思っていたのですが、少なくとも新品書店には売ってないんですよね。『クリスマスのぶたぶた』も含めて光文社で新装版出してくれれば良いのに。
アップルパイの描写についよだれが垂れそうになる今回ですが、内容は結構ダークぶたぶたです。過去7作を読んできている私にとって、ぶたぶたさんは既にファンタジーな存在として認識しているので、そこに掛かる現実的な問題はすべて吹っ飛ばして「アリ」だと考えています。なんでぶたのぬいぐるみに人間の子供がいるのかとか、ぶたぶたさんの食べたものはどこへ消えるのかとか。そういった“あり得ない”要素を、すべて「ぶたぶたさんだから」で全肯定。それはたぶん多くの「ぶたぶた」読者も同じだと思います。
けれど、本作では『ぶたぶた日記』の最終章でもクローズアップされたような、ぶたぶたさんが社会生活を送ることに対する不都合に触れられています。自分のことを「化け物の自覚はある」と言わせたのはどうなんだろう。これだけ長く続いているシリーズだから色々な切り口はあって当然なのですが、そういった冷静な目線が入るとどうにも居心地の悪さを感じてしまうのも事実。
風子さん関連で軽く見せてはいるけど、椛さんの話はかなり重いし。いままでの作品と同じように単純に「癒されたー」という内容ではなく、どちらかといえば苦さが残る作品です。そういう意味では「ぶたぶた」の新しい顔が見られる本かもしれません。
とはいえ、決して苦いままでは終わらせず、登場人物それぞれが抱える問題に対して自分なりにきちんと答えを出しているので読後感はそう悪くないです。無駄にテンション高い応対の風子さん、良いキャラしてるなぁ。
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