2010.11/08 [Mon]
映画『クローバーフィールド/HAKAISHA』
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★★★★★
ただ君が誰か、言えばいい
ニューヨークが未曾有の大惨事に襲われた5月22日。その様子は偶然にも民間人のビデオカメラに収められていた。カメラの所有者はロブ・ホーキンス。その映像は暗号名“クローバーフィールド事件"と呼ばれる惨事の一部始終を捉えた貴重な資料として合衆国国防省に保管されていた。とある夜、日本への転属が決まり、赴任することになったロブのために、大勢の仲間たちがサプライズ・パーティーを開く。そのパーティーの最中、突然、とてつもない爆音が聞こえ彼らが屋上へ行くと、まるで爆撃を受けたかのようにニューヨークの街がパニックに陥っていた。 (2008年 アメリカ)
相も変わらず映画感想。当時あれだけ騒がれていたのに完全スルー、いま頃になってようやく見ましたよ『クローバーフィールド』。賛否がはっきりと分かれる作品なので私の評価を鵜呑みにするとキケンです。騙しやがって!このクソ映画!!と憤る方もいるでしょう。それでも敢えて言います。
こ れ は 超 傑 作 ! ! !
私の中でのモンスターパニック映画の最高峰は依然として『ザ・グリード』で揺るぎませんが、あちらは王道作品です。対してこちらは変化球。怪物が出てきて、きゃあああ!!でも退治するぜ!というプロットが既に完成されており、これ以上発展の余地がないこの手の作品に、新たなる可能性と魅せ方を提示した革新的な映画になっています。
『第9地区』がSF映画の歴史を塗り替えたというのは、いまいちぴんとこなかったけれど、これは見た瞬間に衝撃が奔った。たぶんこの作品を越えるモンスターパニック映画はもう作れないんじゃなかろうか。パニック映画好きなら見ていて損はないとか、そういう話ではなかったですね。これはモンスター映画を語る上では今後、絶対に不可避な作品。おそらく本作はモンスターものの映画を数多くこなしている人間ほど、評価が高くなる類の作品です。
この映画のアイツは『ゴジラ』を引き合いに出して語られることが多いようですが、確かにエイブラムスは当初『ゴジラ』を意識して作ったのかもしれないけれど、私としてはどこがゴジラなんだ?という感じ。アメリカ版ゴジラにさえ程遠い。レギオンとバンピーラとオルガを混ぜ合わせてエイリアン風味に味付けたといった印象です。
怪獣映画やモンスターパニックで巨大生物を相手にする場合、どうしても俯瞰や人々を全景で映してしまうことが多いのですが、本作は違います。ビデオカメラで周囲を映している設定上、目線が完全に登場人物たちと一緒。前を歩く人の頭で先が見えなかったり、状況すらもよく掴めない。あたかもその場に自分自身が存在し疑似体験しているかのような錯覚を覚えます。アトラクション性や臨場感を演出するためにPOVを取り入れた映画は昨今では珍しくありませんが、それを怪獣映画でやったというのが新しいです。軍隊の人間でもなければ怪物を倒すヒーローでもない、何の力も持たない逃げ惑う一市民から見た映画なんて、いままで目にしたこともありませんでした。
もう、すべてがリアル。吹っ飛ばされた自由の女神の頭を写メする民衆だってリアルそのものです――って、逃げろよ!!
そういえば25年振りに地球にウルトラマンが現れたときもみんなケータイで撮ってたもんなぁ。時代だなー
(以下、ネタバレあり)
このハンディカメラがただの撮影手法に留まることなく、実は登場人物たちの拠りどころになっているのも興味深いです。本来なら、生きるか死ぬかの状況でビデオを回し続ける行為は不自然極まりない。でも彼らは最後の最後までカメラを手放すことはありません。撮影者であるハッドが死んでしまった後も、ロブがその役を引き継いでいます。では何故そんなことを続けるのか?
ひとつは、気を紛らわせるため。劇中でハッドが無意味なお喋りでロブたちをイラつかせる場面がありますが、そのとき彼は「何か喋っていないと怖くて怖くてチビっちゃいそうなんだよ!」と言葉を返します。ハッドにとってビデオ撮影は、お喋りと同様に恐怖を追いやるための手段でもあったわけです。
そしてもうひとつ。自分たちの辿った道すじを記録することは、自分たちが確かにその場所に生きていた“証”を遺すことでもあります。巨大な怪物に街を蹂躙され、いつ死ぬかもわからない。助からない可能性の方が高いことは、彼ら自身がよく自覚していたハズです。多くの人間が命を落としていく中で、自分たちの死は“1人”というただの数字以上の価値が残るのだろうか、と。ハッドがハッドで、ロブがロブで、ベスがベスでいたその事実を誰かに伝えたいと思うのは何ら不思議なことではなく、ラストシーン一歩手前でロブがベスに言ったセリフが、このビデオが彼らにとって何であったのかをよく象徴していました。
ビデオが回収され極秘情報として保存され続ける結果を考えれば、バッドエンドを迎えた彼らも少しは報われたような気がします。
ところで、本作はあまりに目まぐるしくブレる映像にビデオ酔いすることでも有名です。私も見ていて気分が悪くなりました。軽い吐き気すら催します。しかし、これは単純にビデオ酔いのせいだけでもなさそうです。
というのもこの映画、精神への負荷がかなり大きいんです。パニック状態に陥った人々が怒鳴り合い、わめき散らし、衝突する。まともに会話が噛み合わないシーンも多々ある。洋画のディザスター映画でもたまにあるのですが、登場人物たちが大声で我鳴る言い争いは見ている側を不快にさせます。本作はリアリティ重視で混乱した彼らの一挙手一投足を丹念に描いているから余計にそれがクローズアップされてくる。要するに生理的嫌悪感をかなり掻き立てられるつくりになっているのです。
観客にまでその感情を体感させるレベルにまで持ってきたのは勿論、褒められるべきなんだけど、これはキツい……。
ビデオを重ね録りした設定によって意外とラストが〆まっていたのも良かった。あの場面を挿入したことで彼らの物語としても上手く終わらせているし、背景の海をよくよく注視するとヤツが地球に飛来してきた瞬間が映り込んでいる手の込みよう。文句のつけどころがないです。
心に与えるダメージが大きすぎるのと、B級好きでない一般人が見るのには適していないため諸手を振っては薦められないけれど、深読み大好き主義者や私と似たような趣味の人間にはきっと楽しめると思います(いや、そんな人いないか)
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