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映画『第9地区』

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ニール・ブロムカンプ

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★★★☆☆
3年だ。約束する。
南アフリカ・ヨハネスブルグ上空に突如現れた巨大な宇宙船。船内の宇宙人たちは船の故障によって弱り果て、難民と化していた。南アフリカ政府は“第9地区”に仮設住宅を作り、彼らを住まわせることにする。28年後、“第9地区”はスラム化していた。超国家機関MNUはエイリアンの強制移住を決定。現場責任者ヴィカスを派遣、彼はエイリアンたちに立ち退きの通達をして回ることになるのだが……。 (2009年 アメリカ)


 日本では今年の春に劇場公開され、SF映画の歴史を塗り替える超傑作とまでいわれた『第9地区』。私にとっては、観に行こうとしたら、ちょうどその前の日で興行が終了していた因縁(?)の映画でもあります。
 視聴前はエイリアンが難民なんて設定、そんなの日本では40年前にやってるわ!とバルタン星人のことを思い出さずにはいられなかったのですが、その超科学を駆使して侵略を始めた彼らとは異なり、この作品のエイリアンたちは地球人以上の身体能力と技術力を持ち合わせていながら、あくまでも現状維持。地球での現在の立場に一応、甘んじています。そしてそういった不遇で不当な扱いを受ける者がいれば、それを擁護しようとする輩も自然と現れて――。

 設定の斬新さというのは、つまりそこ。エイリアンの難民設定がそのまま人種隔離政策やそれに伴う犯罪の増加……等々に置き換えられるものであり、SF的シチュエーションを悉く地に足の着いた、現実に即した世界観に落とし込んでいるところにあります。映画そのものがドキュメンタリータッチなのもこのため。
 これは“リアリティ大好き”な方々に大好評な筈ですよ、アカデミー賞にノミネートもされるって。だってリアルだもの。立ち退きの場面なんてニュースの特集の時間で普通に流れてそうなくらい。

 ただ、そうやって“リアリティ大好き”人間をターゲットに引き込もうと意識しすぎたことで、逆にSF嗜好の人間には物足りない部分があるのも事実です。
 いくら漂着から28年経っているとはいえ、エイリアンと人間が別々の言語を話しているのに通訳なしで会話が成立するのはおかしいし、そもそも彼らが地球域を訪れた目的、船が故障した理由も明かされ終い。さらに、根本的な問題として、たった3年で往復できる距離で消息を絶った大型宇宙船を、母星の仲間が誰も捜しに来ないのは極めて不自然。母星が滅亡したとかの理由があるならわかるのだけど、台詞からするとそれも違うよね?

 しかしそれはともかく置いといて。本作は主人公・ヴィカスが変わっていく物語。第9地区立ち退き作業の責任者に抜擢されたヴィカスは自己中で利己的で。そのことに自分でも気付いていないばかりか、周りの人間もさして気にしている様子はありません。たぶんそれは追い詰められたときに出る本質の部分だからでしょう。
 エイリアンの卵を焼き払う行為を半ば楽しんでいるその姿は、無自覚の悪意を内在した一般市民そのもの。まさしく“普通の人間”の代名詞ともいうべき存在です。

 まずは自分が助かることが先決な彼は、一度は脅迫まがいなことまでした相手に助けてくれと縋り、いざ助からないとなるとそれまでの恩などなかったかのように掌を返す。エイリアンとはいえ、子供にだって平気で都合の良い嘘を吐きます。
 それが最後の最後、やはり彼は普通の人間でした。仮にもいままで行動を共にしてきた人物が絶体絶命の危機に陥った際、どう動くのか。人間からエイリアンに姿が変わるにつれ、彼の心もまた変わっていった、と。
 社会風刺を盛り込んだ現実性に富んだSF、ドキュメンタリー風な映像と変わった趣向が満載。話題騒然な映画でしたが、根底に流れるテーマは普遍。王道で熱い作品でした。


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はろーすみす

Author:はろーすみす
シリーズものも平気で数年寝かせる積読家。本格ミステリとスター・ウォーズ小説を中心に読み漁り、新刊・話題作はあまり追っていません。

好きなミステリ作家は古野まほろ、はやみねかおる、西尾維新、霧舎巧。
ジャンル外では築山桂と小川一水。
講談社ノベルスをこよなく愛す特ヲタ。

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