2010.10/30 [Sat]
ギルバート・アデア『閉じた本』
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★★★☆☆
不思議に思うだろうね。盲人が闇を怖がるなんておかしいだろう。
事故で眼球を失った大作家ポールは、世間と隔絶した生活を送っていた。ある日彼は自伝執筆のため、口述筆記の助手として青年ジョンを雇い入れる。執筆は順調に進むが、ささいなきっかけからポールは恐怖を覚え始める。ジョンの言葉を通して知る世界の姿は、果たして真実なのか? 何かがおかしい……。彼の正体は?
会話と独白文のみで綴られた異色作。こういう変則的な形式の小説を読んだのは今年2冊目です。普通とはちょっと違ったつくりをしているからには、当然そこに理由があるわけで。
今回でいえば、地の文を一切排したことによって、われわれ読者は盲目のポールとまったく同じ視点(ポールでもやっぱり“視点”と表現すると思う)に立って物語に身を委ねることになる、という効果があります。会話以外から世界を知ることができないのは彼も私たちも一緒。目の前で何が起きているのかはっきりわからないので恐怖感も倍増――は、しませんでした。残念なことに。
というのも大体の人はあらすじを読んだ段階で終盤までの展開に予想がついてしまうからです。だって創元ミステリ文庫から出ていてこのあらすじですよ? ミステリというよりはサスペンス色の強い作品ですが、ジャンルからしてそうなることはわかり切っています。
しかし、最後の最後で出てきたアレに関してはまんまとやられました。オビの煽りにある“結末の驚き!”がこのことを指していたのなら、ただただ感心するばかり(その“前段階”を指していた可能性の方が高いですけど)
サスペンスフルなジョンの存在はさておいて、この一点の騙しについては完璧に本格ミステリです。
たまに格子模様や光量の変化なんかを挿し挟みつつ、延々と続く真っ暗な画面に音だけ載せて映画化したら面白そう。予算も掛からないしね。で、最後のパートだけオープンに“世界”を映したりして。
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