2010.10/25 [Mon]
天祢涼『闇ツキチルドレン』
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★★★☆☆
こう見えて音宮サンは、意外に繊細ですから。
もしもの時は、助手ではなく友達として助けてあげてください
殺意の矛先は犬や猫、そして人間へ――。小さな地方都市を震撼させる事件の容疑者は、県警本部長も務めた元警察官僚・最上倉太朗! “共感覚”美少女探偵・音宮美夜は妙な出会い方をした高校生・城之内愛澄とともに捜査を開始する。だが最上は「私は音宮くんを殺したい」と宣戦布告! 狙われた探偵は、裏を知り尽くした男を追い詰められるか。
「音宮美夜」シリーズ 第2作。
第43回メフィスト賞受賞作『キョウカンカク』の続編です。意外な動機が評判を呼んだ前作。探偵が聴覚に視覚(色彩)を伴う共感覚の持ち主なため、殺人願望者は声を聴いただけで見抜ける設定上、簡単に犯人の目星がついてしまうのでは、と危惧していたのですが、むしろ自らその点を突いてきましたね。ともすれば展開を縛る弱点にもなる諸々の設定を、逆に利用してくるとは。
度々ポアロの話題が出てくるこのシリーズ。読み終えてみると今作の展開はアガサ・クリスティ リスペクト故にだったのかと大いに納得しました。
美夜が犯人を断定した決定的証拠は、その場面では読者に伏せられていた“事実”なので必ずしも公平とは言い難い(アンフェアというほどでもない)のだけど、正直に記述してもルーファス・キング『不変の神の事件』のように普通にスルーしていそうな気がします。そういえば前作でも「山紫郎が握っている情報≠読者の知っていること」なポイントがあったような。天祢っちが心配するほど読み手は聡くはないから、もっと大胆に書いちゃっても全然大丈夫だと思う。
それにしても鬱々となる。音宮美夜は並み居る名探偵たちとは違い、強気な表面とはうらはらにその実かなり打たれ弱い。何でもない風でいても今回の事件で受けたメンタル面のダメージは相当なもののハズ。そこが作品とキャラクターの魅力でもあるのですが、はっきりいってキツい。精神的な“痛み”の描写が鋭敏すぎる。狂喜の中に悲哀と痛切が滲み入る254頁目の台詞がこの物語のすべてでしょうね。
そんな歪んだ人たちの壊れた世界の中にあって、あの人物の泥臭い感情の吐露は本当に唯一の救い。その結末に、ほんの少しだけほっとさせられました。
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