2010.09/12 [Sun]
麻耶雄嵩『貴族探偵』
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★★★★☆
自らは推理をしない「貴族」探偵、登場。推理などという〈雑事〉はすべて使用人任せ……。「趣味」探偵の謎の青年が、生真面目な執事や可愛いメイド、巨漢の運転手などを使い、難事件を解決する。知的スリルに満ちた本格ミステリー!
えええぇえっ!?
何やってんの、この人!!
巷で噂の『貴族探偵』を読んでみた。ちなみに麻耶雄嵩はお初です。
で、評判の「こうもり」ですが、これはすごい。ちょっと半端ない。ミステリにおける“地の文で嘘を書いてはならない”のルールを真面目すぎるくらいに厳守し、"騙してない"ことに"騙される"という前代未聞の状況に読者を陥らせます。
(以下、ネタバレにつき。)
しかも読者には“貴布川=貴族探偵”と見せ掛けておいて、実際にはあれは“貴布川=作家先生”という叙述トリックを登場人物当人に仕掛けているわけでしょ? つまり整理するとあの場にいた人物は“貴布川=貴布川”以外の何者でもなく、それを正直に記述しているにも関わらず、読者と登場人物が勝手に誤解したカタチになっている。アンタが勝手に勘違いしたんでしょ、みたいな。これは新しい! まさに逆転の発想!!
いやー これはもう殆ど開き直っちゃっているレベル。改めて読み返してみると「バカだなぁ」とすら思えてくるくらい。
――と、まぁここまで大絶賛にも関わらず、本作の評価は★×4です。「こうもり」だけならば間違いなく★×5で良いのですが、この短編集、前半2編(2001年執筆ぶん)が極限につまらない。ミステリとしては丁寧に伏線も張られていて、むしろ良作の部類だと思うんですよ。けれどドラマ部分というか物語そのものにまったく面白味を感じられませんでした。
その原因のひとつが貴族探偵の設定。世の中には対面した相手の記憶を見ることができたり、“地球の本棚”からこの世のすべての情報を閲覧できたり、必要な証拠が出揃った瞬間に自ずと真相を知り得る能力を持つ探偵もいたりして、推理をしない探偵もいるにはいるわけです。
一方でこの作品に登場する貴族探偵はまた別のパターンで、自分では推理を行わずに使用人たちに“探偵”させます。この設定は全然オーケーだったのですが、問題はその部分にありました。
御前のいうところの“道具”である一介の使用人がその主の前で己を封じて推理を披露するため、謎解きパートがとにかく淡々としており、盛り上がりに欠ける。要するに事件発生から解決までの流れが極めて単調なんです。
それに貴族探偵が現れて刑事と衝突→正体を知らされて言いなりに――って、この流れまんま浅見光彦じゃないですか。しかもそこも別段笑えないし。
とはいえ、例の「こうもり」は絶対の自信を持って薦められるミステリであることは間違いないし、後半2編は探偵のキャラも立ってくるのでそれらのマイナスポイントも払拭されます。
うん。一言でいえば、限りなく評価に困る短編集でした。
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