2010.07/26 [Mon]
平林佐和子『小説 初恋限定。 ウィンター・フォトグラフィー』
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はい。きっと、こういうことを奇跡というのかもしれません
オリジナルキャラクターを迎えて、あたらしい「初恋」がはじまる!! 本郷ゆかりは悩んでいた。大好きな幼なじみ、猪山から、まったく女の子扱いされないことに……。しかしある日、ゆかりは自慢のHな下着を猪山に見られてしまい……。一方、千倉名央の兄、一真は写真部の部室でひとりの少女と出逢う。彼女――陣内志穂との不思議な出逢いが、一真の恋のはじまりだった……。その他に最強のドジっ娘がまたもやらかすお話など本編では見られなかった物語が満載!! もちろん本編で活躍した娘たちのその後も!!
神作品『初恋限定。』は、ノベライズでも傑作だった!!
というわけで、マンガ『初恋限定。』のノベライズ。時系列的には本編の後日談にあたります。
この『初恋限定。』は、私がいままで読んだマンガの中で(永遠の殿堂入り作品『P2! -let's Play Pingpong!-』を除いて)2番目に好きな作品で、珠玉のオムニバスにして究極の群像劇だと思っています。この作品においては登場人物のすべてがそれぞれの「物語」の主役であり、それが友人関係だったり兄弟関係だったりして緩く繋がっている。“たとえどんな脇役端役であっても必ずその人だけの「物語」がある”を信条としている私の、まさに理想型といえる作品でした。
そんな『初恋限定。』のノベライズ、収録されている話は全部で4話。そのうち、そあこちゃん主演のおまけストーリーが2話なので、実質2本立ての本作ですが、その1本目で敢えてオリジナルキャラクターを主役として据えたところをまずは褒めたいです。本編レギュラー陣のひとり江ノ本慧の部活友達という設定の本郷ゆかりの物語。そう、これなんですよ!『初恋限定。』って。
確かに単行本完結以後のレギュラー面子のその後は気になります。楠田と江ノ本の口喧嘩は懐かしいし、曽我部くんと千倉ちゃんの絡みにも期待したい、夕と別所くんの関係もあれからどうなったのか……けれど、そういったものは『初恋限定。』のキャラクターたちの物語には変わりはないものの、『初恋限定。』のコンセプトから外れるような気がします。どこにでもいるような少年少女のそれぞれの初恋が、交わるか交わらないかのぎりぎりの関連性を保ちながら進行していく――それこそが『初恋限定。』の真髄でしょう。だから、本作の第1話「オレンジのメッセージ」で初出のキャラがこれまた新キャラ相手に恋愛をしていても、その娘たちと『初恋限定。』キャラクターがどこかで繋がっていれば、それはもう立派に『初恋限定。』なのです。
わかってはいても実際にやろうとすると商業的にはかなりの冒険で、遂行するのがなかなかに難しいこのスタンスをきちんと貫いてくれたくれた著者と編集部には感服するばかりです。
(以下、ネタバレあり?)
目玉となる千倉兄主役の「ウィンター・フォトグラフィー」も良かったです。千倉一真と江ノ本夕だけがほんと私の心残りだったので。
ストーリーはこういった類では割りとありがちで先も読めるのですが、それでも迎える結末は美しくも悲しく、それでいて儚い余韻を残してくれる名エピソードでした。実は千倉兄が読者同様、はじめから志穂の正体に気付いていたというのは少なからず新鮮ですし、志穂を撮った写真にしてもこの手の話ではだいたい“残る”ことが多いと思うんですよ。それがこのエピソードではその逆で、結果的にはそれが一真の成長のきっかけになっています。そして、一真以外の人間にはその写真の意味するものがわからないという秘めたる恋のたったひとつの証として、それはいつまでも存在し続ける。あぁこの話、好きだ。
ところどころで単行本収録のエピソードにも触れているのもファンには嬉しいですね。原作未読組には少し薦めにくいところがあるけれど、『初恋限定。』が好きな人は間違いなく買うべき作品。単行本の隣に並べてやってください。背表紙デザインに違統一性があるのもそういうことです。『初恋限定。』はこのノベライズも含め、全5巻であると私は断言します!
――『初恋限定。』に関しては、これだけ感想述べても後3時間は余裕で語れるね!!
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