2010.07/09 [Fri]
映画『踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!』
![]() | 踊る大捜査線 THE MOVIE 3 ヤツらを解放せよ! スタンダード・エディション [Blu-ray] ポニーキャニオン 2011-02-02 売り上げランキング : 33597 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
★★★☆☆
湾岸署を襲った連続殺人事件から7年。海外からの要人が降り立つ空港が近くにあり、高速道路や変電所などが立ち並ぶお台場は、テロリストの標的となっていた。そのため湾岸署は、よりセキュリティー設備が充実した新湾岸署への引っ越しをすることになる。引っ越しの作業を一任された青島は、部下と一緒に取り掛かるものの、湾岸署管内で次から次へと事件が発生し……。
「踊る大捜査線」劇場版 第3作。
「踊る」サーガは『トリビアの泉』内で放送された『警護官~』と『深夜も~』を除いて全作視聴済み。
『踊る大捜査線』に関しては私は熱狂的ファンでもなければ、ドラマのマイベスト10圏内の作品でもありませんが、今回の劇場版が決まったときは本当に嬉しかったし、新たな情報が出るのも日々心待ちにしていました。そういった意味ではライトなレベルでは一応ファンのひとりに数えられるのかな。
なんでここで、自分の立ち位置を明らかにしたのかというと、たぶんこの作品の感想を求めてきた人は書き手がどんな立場の人間であるかを知りたいだろう、と思うからです。
私は楽しめたクチなのですが、それにしても酷評されてますね~ 今回の劇場版。その最大の原因は、劇場版 第1作を完全に汲み、さらには数多あるサーガの登場人物・小ネタを網羅した完全にファンに向けの作品になっているにも関わらず、いままでの作品とは明らかに毛色が違うことにあると思います。
さしずめ、“新たなるステージへ”そして“旧湾岸署への鎮魂歌”といったところでしょうか。
(以下、ネタバレあり)
本作では青島君が係長に昇進し、自分のチームを持つことになりますが、これによって物語が従来メンバーの“チーム湾岸署”の活躍劇から青島係長率いる“チーム青島”のものへと移行します。続編SPとスピンオフでキャラクターの数を増やしすぎたがために、それぞれに一定の出番を与えるのが難しくなっているというのが本音でしょう。『なのはStrikerS』現象ですね(わからない人、すみません)。例えば今回だとオチに回したとはいえ、真下なんかは明らかに持て余しています。今後、仮にシリーズの続編が作られることになると、もっとキャラクターの取捨選択が行われるだろうし、フェードアウトさせる人も少なくないハズ。そういった意味では今回が最初で最後のオールスター戦ということかもしれません。
逆に。本作を新生チームのデビュー戦として見るならば、カラーの違いも納得です。むしろ上手く差別化できているくらい。
本作中で特徴的なのは“どうにもならなさ”=“乗り越えられない絶対的なモノ”が終始付き纏っているところです。室井さんは偉くなった。しかしそこには正義はなく、あるのは政治判断のみ。現場と上層部を繋ぐことがいままで考えていた以上に難しい現実であることを突き付けられます。
日向真奈美。彼女の存在がこの作品のすべてと言っても良いくらいです。心理操作でひとりの男を犯行にまで至らせる真犯人という図は、古野まほろ『天帝のはしたなき果実』の真犯人のそれとまさに同じで、清涼院流水や西尾維新あたりがやってそうな雰囲気。犯人の人格と得体の知れなさに、いわゆる脱格系あたりに通じるものを感じます。
その日向真奈美が言い残した“別の圭一”という言葉。これは決して少年漫画でお決まりの「私を倒してもまた第2、第3の(ry」的なセリフで同様のチープなものではないです。バーナード・ベケット『創世の島』でも議論が為されていた“思考の感染”に近い考え方か。真奈美と共鳴する考えを持っている人間ならば、いつその“種”が芽を出してもおかしくはない。その誰もを私は操れる、と。
そしてその言葉に掛かってくるのが鳥飼の存在です。死にたい奴は死ねば良いという考え方。室井さんに対して容赦も躊躇もなく射殺という選択肢を示してみせた鳥飼。その心の奥底に潜むものは、極論まさしく真奈美のそれと同じなのではないでしょうか?
表向きは明るく綺麗にさっぱりと終わる本作ですけど、実はその裏で様々な禍根を残していきました。これが次なるステップへの序章のように思えて仕方ありませんでした。
今回の映画には旧湾岸署へのお別れ会&疲れ様の気持ちも勿論込めていたと思うのですが、それと同時に旧湾岸署を爆破させたのは、旧きを壊して新しい「踊る」を――という意図が見え隠れしているような……。
病気ネタもある意味、“限界”を表しています。自分の力ではどうにもならない、絶大なる存在。しかし、たとえそんな壁にぶち当たって一度はそれにめげても、ぶつかり続けるのが青島俊作という男。死ぬ気になれば何でもできると現場捜査に駆けずり回り、新湾岸署の高セキュリティーを目の前にしても決して諦めない。常人には不可能とも思える日向真奈美の説得と射殺回避の任も、彼ならばなんとかしてくれるハズ。
これから立ちはだかる高い壁を見せつつも、どんな壁であれ青島君なら越えてくれる、真正面から体当たる青島君の姿に周りはいつしか感化され、変わっていく。青島君のそんな魅力こそ、この映画のすべてです。
それにしても湾岸署封鎖時のすみれさんからのメッセージ、そこだけ抜いてみればあんなにシリアスで感動的なシーンなのに、観ている側は真相を知っているのでどうしても笑ってしまう。絶妙な匙加減です。
すみれさんには全編に渡ってにやにやさせられっぱなしでした(ツンデレ的な意味で)
スポンサーサイト
Comment
Comment_form