2010.06/29 [Tue]
加納朋子『ぐるぐる猿と歌う鳥』
![]() | ぐるぐる猿と歌う鳥 (講談社ノベルス) 加納 朋子 講談社 2010-05-07 売り上げランキング : 234199 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
★★★★☆
ちょお、あんたーち、なんしよったと?
小学五年生の高見森は、父親の転勤のため北九州に引っ越すことになった。転校先で出会った、同じ社宅に住む仲間たち――ココちゃん、あや、竹本兄弟、そしてパック。新しい友だちと楽しい日々を過ごす森だったが、徐々に違和感を覚え始める。誰かが描いた地上絵、図書室の暗号、友だちの秘密……。小さな謎に秘められた、驚きの真実とは。
最近映画の感想に傾倒気味でしたが、今回は久しぶりの読書感想。
ミステリーランドからのノベルス落ち、加納朋子『ぐるぐる猿と歌う鳥』です。
すみません、そういう汚れた目で見る作品ではないです。
けれど、これはあやに限ったことではないですが、全編に渡って北九州訛りでやりとる子供たちの姿は微笑ましいと共に、読み手にノスタルジーを感じさせる一因にもなっています。方言というものをそれほど親しんだ身ではないのにそう思うから、不思議です。いや、だからこそなのか?
生徒の大半が同じ社宅の子供である小学校だったり、グリーンの色合いが絶妙な装画も含め、この本は本当に隅から隅までノスタルジックな雰囲気で彩られています。オビのコピーもこれまた秀逸で、“世界”を“まち”と読ませるところからして素晴らしいの一言。だって子供にとっての“世界”って“まち”の中に集約されているじゃないですか。そこから出ることはつまり“別の世界”に行くことで、だからこそたとえば夏休みにおばあちゃんの家を訪れるのは大イベントなわけです。このあたりの“世界”の見方が本作終盤の展開にも掛かってくるのだから、改めてこの文句は素晴らしいと明言しておきます。
そしていちばん好きな映画が『ジュブナイル』の私です、こういった少年時代の冒険譚ちっくなものには非常に弱いです。琴線にも程がある。だーいーすーきーだよー!(田村ゆかりの「Super Special Smiling Shy Girl」風に)
そうはいってもこの作品、そんな印象とは相反して、とても児童向けレーベルから出されたものとは思えないほどに重たいテーマを多く扱っています。
パックの件は勿論、冒頭のイマジネーション・コンパニオン(昨年読んだあの本で覚えた!)のくだりもそうですし、ココちゃんの話、エリちゃんの父親のこと――大人が気付かない子供だけに見える“世界”を舞台にしていながら、そこに常々横たわるのは子供にはわからない大人の事情、そして逃れられない現実。森たちはそれに触れて、考えて。変わらない日々の中でほんの少しずつ変わっていく、そんな物語です。
ミステリを期待すると多少肩透かしかもしれませんが、そんなことはこの本の前では些細な問題でしかありません。
とりあえず読むべし !!
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