2010.06/05 [Sat]
ダン・ブラウン『ロスト・シンボル(上) Limited Edition』
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★★★☆☆
だれにも言わないでもらいたいんだが、異教の太陽神ラーを崇める日に、
古の拷問器具の下でひざまずき、血と肉の儀式用の象徴を食べているんだ。
キリストの聖杯をめぐる事件から数年が経ち、ハーヴァード大で教鞭を執る静かな生活を送っていたラングドンに、旧友から連絡が入る。フリーメイソン最高位の資格を持つスミソニアン協会会長ピーター・ソロモンからで、急遽講演の代役を頼みたいという。会場である連邦議会議事堂に駆けつけるが、そこにピーターの姿はなく、切断された右手首が……薬指にはフリーメイソンの紋章をあしらった見覚えのある金の指輪。ピーターを人質に取ったというマラークと名乗る謎の男は、ラングドンに“古の門”を探せと命じる。ラングドンは駆けつけたCIA警備局長サトウと共に、“古の門”の捜索に乗り出すのだが……。
「ローバート・ラングドン」シリーズ 第3作。
さあさあ、皆さんお待ちかね。『ダ・ヴィンチ・コード』の「ラングドン」シリーズ最新刊。流行モノを嫌っている癖に、コンスタントに読んでいるシリーズものの海外小説がこれと「ポアロ」と「スター・ウォーズ」という――しっかり大衆的ですね。すみません。
本作のテーマはかの有名な秘密結社フリーメイソン――いえ、作中の説明によるとどうも秘密結社ではないらしいです。フリーメイソンの会員は別段、メンバーであることを隠してはいないし、歪んだ解釈が先行しているだけで実際には怪しい儀式も妙な陰謀も企ててはいない、秘密でも何でもない集団だとのこと。言われてみれば確かに、○○はフリーメイソンだみたいな話はわりかしよく聞くような聞かないような。仮にフリーメイソンが本当に秘密結社だとしたら、ちょっと情報漏洩を許しすぎな気がしなくもないです。
というか作中描写を見る限りだと、少なくともアメリカではフリーメイソン(とその会員)は一般の認知度もかなり高いように思います。理解度は別としても結構メジャーで遠くない存在なんでしょうか? せいぜい本屋で『ムー』を立ち読む程度の一般的日本人には到底わかりません。
ともかく。こういった謎の組織が出てくると、黒幕は彼らですべてが組織の企てとするのが常套且つお手軽ですが、あくまでもフリーメイソンが(少なくとも現段階では)シロで物語が進むというのはなかなかに斬新です。
もうひとつ感心したのが、前作であれだけ議論を重ね、事件を引き起こす根本にもなった聖杯の存在を、マラークが「どうでも良い」の一言でいとも簡単に片付けた点。モノの価値観というものは本当に人それぞれだということを見事に描いています。こういった趣の作品は一方通向の凝り固まった考えを押し付けることになりがちですが、本作では多方向からひとつの事象を見つめてみせていて、提示した“物語”が決してすべてでないことをきちんと読者に伝えています。これ、意外と重要なことですよ。やるな、ダン・ブラン。
それにしても今回のラングドンは実に大学教授らしい。信じる信じないはともかくとして、とりあえず目の前の命題に取り組んだら良いのに……と思うのですが、引っ掛かったらそれをクリアするまで先に行けないその頭の堅さといったら! 読んでいてフラストレーション溜まること請け合いです。
――てか。
内容云々以前に致命的に気になった点があって。
イノウエ・サトウという謎ネーミングは、『スタートレック ENT』でもホシ・サトウという前例があったからとりあえず置いておくとしても、CIAって確かアメリカ国内では活動しないんじゃ?
⇒下巻
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