2010.05/21 [Fri]
映画『フライトプラン』
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★★★★☆
事故死した夫の葬儀を実家で行なうため、旅客機に乗り込んだ妻・カイルと娘・ジュリア。機内で眠りについたカイルが目を覚ますと娘の姿が消えていた。機内をくまなく探す彼女に信じがたい知らせが。娘の行方を知る者は誰もなく手がかりはゼロ。カイルの孤独な闘いが今始まる……。(2005年 アメリカ)
地上波で放送があったので視聴。諸々のレビューや感想なんかを見てみると、かなり酷評が多い作品のようですが、私自身としては人間の心の持ち様までも伏線として取り込んだ上で、上手くミスリードを効かせた、かなりよくできた作品だと感じました。
まず初めに思ったのが、あらすじを読んでも物語のディテールが掴めないということ。密室状態である飛行中の航空機から娘が消えた――それはわかります。とはいえ、そこからどの方向に話を持っていきたいのかが実際にある程度見てみないとわからないんですね。回想を含め、詩情的に描かれる飛行機に乗り込む前のカイルの様子からして、どうも単なるアクションものではなさそうな雰囲気が漂っています。ホラーなのかミステリなのか。まずはそこからというのが異色です。
飛行機搭乗後に消えたジュリア。その姿を見たものは誰もおらず、“娘は最初からいなかった”と皆に諭されても、ただただその事実を認められずに彼女を捜し続けるカイル。ここらでわれわれ視聴者が第一に考えつくのが、劇中でも指摘される“ジュリアはもともと存在していなかった”説。現に機内にはジュリアが乗り込んだ痕跡はまるでなく、搭乗記録すらも存在しない。加えて出てくるのがジュリアの死亡診断書。すべてはカイルの妄想で、某有名第六感映画的な展開になってるんじゃないかと、柩を開くとそこにジュリアが――みたいな。殆どの人がそう思うのではないでしょうか。
このあたりの、添乗員・機長・刑事・乗客すべてに否定されても、ジュリアは誘拐されたのだと半狂乱で主張するカイルの姿ははっきり言って見ていて相当キツく、かなり堪えます。挙句、怪しいと決め付けた人物を掴み掛からんばかりに問い質し、飛行機の運航に支障をきたすほどの暴挙に打って出るもののジュリアは見つからず。ジョディ・フォスターの迫真以上に迫真の演技も相俟って、誰がどう見ても夫と娘を喪ったショックで精神錯乱、前後不覚に陥った憐れな女の人にしか見えません。気軽に見ていい映画ではないですね、これは。
(以下、物語の核心部分に触れます)
――しかし、これこそがこの作品に仕掛けられた罠で最大のミスリード。実はジュリアはきちんと生きているし、飛行機にも乗っていました。その上で誘拐された、まさにカイルの主張通りでした。とはいえ、それが明らかになるのはまだ先の話で、この時点ではまだ真相不明。われわれ見ている側も登場人物たちも、遺体安置所発行の死亡診断書という決定的な証拠によって、すべてはカイルの妄想の産物と思わされます。
巧妙なのが、ここでこのミスリードが他ならぬカイル本人にも仕掛けられているところです。動かぬ証拠を突きつけられ、整理された“事実”を提示されたとき、すべては自分の想像の産物だったのかもしれない、認めたくはないが状況的にそれ以外に考えられないという心理状態になります。この後のカウンセラーとの会話で流した涙は、まさにそれを物語っているところです。
さて真相部分。娘はなぜ消えたのか?どうやって消されたのか?という問題。これに関してはかなり大胆ですが、十二分に可能な手段です。つまり、400人以上も人間がいる飛行機の中で、見知らぬ他人の一動作なんて誰も気にしていないし、いちいち覚えてもいないということ。群集の中では取り立てて特徴のない犯人も被害者も、一種の“透明人間”状態にあったんですね。だから恐らく、犯人はジュリアを堂々と抱きかかえ通路を歩いていたのだろうけど、どこかの親子らしきふたりの所為は誰ひとりとして気に留めていなかった。バッグや荷物にしたって、誰が頭上の収納スペース空けてようが別段気にしてないんです。
これもきちんと伏線があって、キャビンアテンダントのフィオナが、いちばんに搭乗してきたカイルとジュリアの親子を正直なところ覚えていないと言ったのがそれです。プロたる客室乗務員ならばそのくらいは覚えていても良さそうなものですが、フィオナが新人=一般客とさほど変わらぬ視点の持ち主であることは、離陸前のキャビンアテンダント同士の会話で明言されていました。それなら単なる乗客は尚更、ですよね。
答えは序盤で明かされていたわけです。
ちなみにこの他人への無関心さと無責任加減は、途中カイルが捕まったときの乗客の拍手と、ラストでジュリアを救い出したことを受けての囁きにも見ることができます。「だから子供、見たって言ったじゃん!」の後出しセリフはさすがに非道過ぎる……。いや、もっと早くに言えよ、と。
というか子供探捜しを手伝う人が皆無で、あまつさえ手伝いを買って出た坊やたちを止める大人――。人情味の欠片もないそういう考えがこの犯罪を成立させたんですけど。反省しなさい。
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