2010.05/10 [Mon]
仁木悦子『猫は知っていた 仁木兄妹の事件簿』
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★★★☆☆
兄はわたしの苦ちゅうを察したらしく、横目でこっちを見てにやにや笑っている。
いまいましい。
時は昭和、植物学専攻の兄・雄太郎と、音大生の妹・悦子が引っ越した下宿先の医院で起こる連続殺人事件。現場に出没するかわいい黒猫は、何を見た?ひとクセある住人たちを相手に、推理マニアの凸凹兄妹探偵が、事件の真相に迫ることに――。
「仁木兄妹の事件簿」第1作。第3回江戸川乱歩賞受賞作。
ミステリ好きとは言いつつ古典もスタンダードも読まない自分は、恥ずかしながら仁木悦子の名前をこの本を手に取るまでまったく知らなかったわけですが、なるほど近代ミステリのターニング・ポイントと位置づけられる作品だけのことはあります(上から!?)
文中の単語の中に多少時代を感じさせるものがあることを除けば、とても50年も前に書かれた作品とは思えないほどに、驚くくらい現在のキャラものミステリとの差異がありません。真相で明かされる物理トリックなど、コナンくんなんかで普通に出てきそうなくらい。こういった少し手の届き難い作品を洒落た装丁、お手頃価格で目に触れる機会も提供してくれる――なんて素晴らしいの、ポプラ社! 築山さんの新刊も早く出してね!!
作風や語り手の悦子(146cmで体重60kgはぽっちゃりというより……)のチャーミングさも手伝って、全体に明るくポップな印象ですけど、物語の根底にあるものは実は結構暗いです。ダークでダーティーです。それは殺人の動機も含めてですけど、作中人物の人間関係だとか行動だとかに相当に人でなしな部分があって、しかもその一部は実際には当事者の口から語られないというのもまたなんとも重苦しさを強めています。指輪泥棒(未遂)の犯人とか反省の色を見せる様子もないし、外道過ぎる……。
結末も相当、重いです。「良いも悪いもない」という雄太郎の言葉、それがまた本当であるから言葉自体にも重みがあるんですね。なんだかんだいって雄太郎自身、相当堪えていると思います。結果的にそうなってしまったとはいえ、その心持ちと受け止める気持ち、どこかの真野原にも少しは見習ってほしいです、まったく。
しかしそれでいて、見た目軽やかオブラートに仕上げている仁木悦子は、さすが近代ミステリの礎、戦後女流作家の草分けといったところでしょうか。
当然の如く続きも購入、揃えていきます。
うん、楽しみなシリーズが増えました。
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