2010.04/27 [Tue]
小川一水『第六大陸(1)』
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★★★★☆
未踏大陸……南極のような、六番目の大陸か
西暦2025年。サハラ、南極、ヒマラヤ―極限環境下での建設事業で、類例のない実績を誇る御鳥羽総合建設は、新たな計画を受注した。依頼主は巨大レジャー企業会長・桃園寺閃之助、工期は10年、予算1500億、そして建設地は月。機動建設部の青峰は、桃園寺の孫娘・妙を伴い、月面の中国基地へ現場調査に赴く。だが彼が目にしたのは、想像を絶する苛酷な環境だった――民間企業による月面開発計画「第六大陸」着工。
「第六大陸」第1作。全2巻で終わり方も次巻へ続く、なので実質的には上巻。
上巻で★×5をつけると、下巻が万が一にも期待以下だった場合に残念なことになるため敢えての★×4評価ですが、これかなり面白いです。現段階では★×5の作品と比べても何ら遜色ありません。
普段はあまりこういったジャンルは読まないので詳しくはわかりませんが、一般的な近未来モノの本格SF小説はおそらく登場人物が横文字(カタカナ)名というのが多いと思います。それはたぶん現実世界との差別化のためであったり、未来=国際化・多文化交流化が実現している等、様々な理由があるのでしょうけど、どちらにしてもその方がしっくりくるのも事実です。『ガンダムUC』然り。対して本作は日本の建設会社が物語の中心にあり、当然のことながら作中人物の殆どが日本人です。それだけでまず親しみが湧きます(単純)
加えて、初登場時12歳の謎を秘めたヒロイン、妙ちゃんの可愛さは言わずもがな、ただただ可能性の限界に挑んでみたいと計画に参加する人々の姿は見ていて気持ち良いです。別段ラノベちっくなわけではないけれど皆が皆、キャラ立ちしていて10年という長いスパンに渡る、それぞれのキャラクターの物語としての大河性を備えているのもポイントです。
近未来でありながら未だに宇宙に滞在している人間はほんの十数人、唯一の月面基地も実は自転車操業でなかなか衛生面まで追いついていない、などの諸設定は、過渡期を通り越した時代を舞台にしたSF作品に馴れ親しんだわれわれにはかなり新鮮ではないでしょうか。22世紀の宇宙への本格進出期にスポットを当てた『スタートレック エンタープライズ』でさえ、コクレーン博士によるワープ飛行実現後、異性人とのファースト・コンタクト済みですからね。“ほど良く”以上にリアルな描写(小説におけるリアリティは現実性と同等だとは、私は思っていません)と地に足ついた物語にはかなり惹き付けられました。
個人的には、何気に『サイダーの気が抜けるまで。』以来となる文章表現のスマッシュヒットでもありました。妙ちゃんのへこみ顔のときの“へちょ”とか、月の重力下での水の動きが“とよん、とよん”と表現されていたり。それらのオノマトペの他にも、妙ちゃんのセリフ内の“他言無用”でわざと平仮名の“たごんむよう”を使っていたりと、表現がいちいち自分の感性に合うというか。読書において、それって結構大切ですよね。
今巻はNASAが御鳥羽の「第六大陸」計画に対抗しての月面都市計画を発表し、宣戦布告を叩きつけてくる盛り上がりどころで終わってしまっているので、ますます下巻は目が離せないです。
その前に『スター・ウォーズ』小説の新刊が出たのでそちらが先になりますけど、続きも早めに読みます。
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