2010.04/14 [Wed]
キャラ読み~その是非を問う。
昨日の話題がはっちゃけ過ぎていたので、今日は真面目なお話を。
いつものように書店の文庫コーナーを眺めていたらなんとも挑発的なオビの小説を見つけました。
――三雲岳斗『少女ノイズ』
いや、文庫化されるのは知っていたし、興味がないわけでもなかったけれど、オビに書かれた有川浩の推薦文がすごい。
曰く。
“ミステリ部分、ぶっちゃけどうでもいい”
えええぇえぇぇっ!?
だってミステリじゃん。
ミステリ小説を読む理由として、それは意味がわからない。ミステリ部分を読まなくてどこを読むの?って話ですよ。
解説によるとそれは、所謂本格ミステリのトリックや謎解きなど難し気な構造についていけない読者であっても、“キャラ読み”という手段があり、登場人物が生き生きと描かれていれば、各キャラクターに感情移入するという手段で物語を楽しむことができる、という考え方からきているらしい。
うん。キャラクターの起こす行動を楽しむ――その意見には諸手を挙げて賛成できます。そもそも探偵小説は謎解きという形態もさることながら、主役である名探偵の活躍を楽しむ物語でもあると思うからです。古くからミステリ小説は名キャラクターでもある名探偵と共にあり、そのキャラクター性があってこそ。名探偵が関係者一同を集めて「さて」と始める謎解きシーンのカッコ良い姿を見たいがために小説を読むのは、ミステリ読みもまた同じです。
ここで勘違いしないでほしいのは“キャラ立ち”=“わかりやすいキャラ付け”ではないということ。だから小説に限らず、マンガやアニメでもテンプレちっくないかにも“キャラっぽい”ツンデレだの委員長だの、いわゆる属性だけで成り立っているキャラクターは、決してキャラが立っていることと同義ではないんです。キャラが立つというのは即ち、登場人物が魅力的に描かれていることであり、むしろそうしたテンプレキャラはひとつの属性に縛られて逆に没個性になっているともいえます。
個人的な好みを申すと、私自身はキャラが立っていない小説ははっきりいって好きではありません。物語が淡々と進んでいくように感じるからです。
そういう意味では私や多くのミステリ読みもまたキャラ読み派といっても良いのかもしれません。しかしキャラものミステリ愛好者とここで有川さんがいうキャラ読みとは絶対的に異なります。
その両者の違いが顕著に現れたのが、ドラマ『相棒』の亀山薫卒業問題でしょう。知ってのとおり『相棒』は Season 6 にて、番組内容のマンネリ化を避けるために主演のひとりを退場させるという変革をやってのけました。この薫卒業が『相棒』ファンに投げかけた波紋というのは思いの外大きく、一時は番組公式ページのコメント欄が大荒れ、賛成派と反対派の対立で泥沼化したくらいでした。
ここで不思議だったのは薫ちゃんが卒業したら『相棒』じゃない、もう見ないという意見です。これはまさにキャラ読み派(視聴者ですけど)の考えでしょう。確かに『相棒』の魅力のひとつは右京さんと薫ちゃん、薫ちゃんと伊丹との掛け合いであったりするわけですが、それがすべてか?といったらそんなことは絶対にないし、大部分ですらない。薫ちゃんがいなくなるのは淋しくとも、それで『相棒』という作品の本質が変わるわけではありません(Season 7 の低レベル化は新規脚本家の大量起用によるところが大きい)。
では『相棒』の魅力は、本質は何なのか?それは他のドラマとは一線を画す作風と本格ミステリから社会派ミステリ、対テロ事件、時には夢オチのコメディまでやってのけるその振り幅の広さではないでしょうか。小学生が殺人犯だったり、暗示で人を殺したり、社会全体の完全監視システムに主題を置いたり、そんな連続ドラマは未だかつて――少なくとも日本のものでは見たことがありません。
冷たい言い方ですが、薫ちゃんがいようがいまいが、右京さんがいなくなろうが、それは変わることのない根幹部分です。
キャラ読みは一向に構いませんし、むしろそれで門戸が拓けるなら大歓迎です。まほろさんの小説だってキャラ読み向きなんだし、どんどんキャラ読んじゃってください。けれど、キャラ読みはあくまできっかけだと思います。キャラ読みに徹し、それ以上に作品に踏み込まないとその作品の本質部分を見失う恐れがあります。トリックが素晴らしい小説の犯人だけを当てて大したことないな、と喧伝する――まさに裸の王様なわけですが、怖いのはそういった人たちが集まると力を持ってくるとこです。それこそが『相棒』のコメント大荒れ事件の元凶だったのではないでしょうか。
――と、まぁ有川さんのコメントは本来のターゲット以外の人間が手に取るきっかけを提供しているわけだから、全くもって問題ないのですけど、ちょっとそんなことを考えてしまったので。
こういう話をすると、だからミステリとか堅苦しいのは嫌なんだよ、とか思われそうですが……。
いつものように書店の文庫コーナーを眺めていたらなんとも挑発的なオビの小説を見つけました。
――三雲岳斗『少女ノイズ』
いや、文庫化されるのは知っていたし、興味がないわけでもなかったけれど、オビに書かれた有川浩の推薦文がすごい。
曰く。
“ミステリ部分、ぶっちゃけどうでもいい”
えええぇえぇぇっ!?
だってミステリじゃん。
ミステリ小説を読む理由として、それは意味がわからない。ミステリ部分を読まなくてどこを読むの?って話ですよ。
解説によるとそれは、所謂本格ミステリのトリックや謎解きなど難し気な構造についていけない読者であっても、“キャラ読み”という手段があり、登場人物が生き生きと描かれていれば、各キャラクターに感情移入するという手段で物語を楽しむことができる、という考え方からきているらしい。
うん。キャラクターの起こす行動を楽しむ――その意見には諸手を挙げて賛成できます。そもそも探偵小説は謎解きという形態もさることながら、主役である名探偵の活躍を楽しむ物語でもあると思うからです。古くからミステリ小説は名キャラクターでもある名探偵と共にあり、そのキャラクター性があってこそ。名探偵が関係者一同を集めて「さて」と始める謎解きシーンのカッコ良い姿を見たいがために小説を読むのは、ミステリ読みもまた同じです。
ここで勘違いしないでほしいのは“キャラ立ち”=“わかりやすいキャラ付け”ではないということ。だから小説に限らず、マンガやアニメでもテンプレちっくないかにも“キャラっぽい”ツンデレだの委員長だの、いわゆる属性だけで成り立っているキャラクターは、決してキャラが立っていることと同義ではないんです。キャラが立つというのは即ち、登場人物が魅力的に描かれていることであり、むしろそうしたテンプレキャラはひとつの属性に縛られて逆に没個性になっているともいえます。
個人的な好みを申すと、私自身はキャラが立っていない小説ははっきりいって好きではありません。物語が淡々と進んでいくように感じるからです。
そういう意味では私や多くのミステリ読みもまたキャラ読み派といっても良いのかもしれません。しかしキャラものミステリ愛好者とここで有川さんがいうキャラ読みとは絶対的に異なります。
その両者の違いが顕著に現れたのが、ドラマ『相棒』の亀山薫卒業問題でしょう。知ってのとおり『相棒』は Season 6 にて、番組内容のマンネリ化を避けるために主演のひとりを退場させるという変革をやってのけました。この薫卒業が『相棒』ファンに投げかけた波紋というのは思いの外大きく、一時は番組公式ページのコメント欄が大荒れ、賛成派と反対派の対立で泥沼化したくらいでした。
ここで不思議だったのは薫ちゃんが卒業したら『相棒』じゃない、もう見ないという意見です。これはまさにキャラ読み派(視聴者ですけど)の考えでしょう。確かに『相棒』の魅力のひとつは右京さんと薫ちゃん、薫ちゃんと伊丹との掛け合いであったりするわけですが、それがすべてか?といったらそんなことは絶対にないし、大部分ですらない。薫ちゃんがいなくなるのは淋しくとも、それで『相棒』という作品の本質が変わるわけではありません(Season 7 の低レベル化は新規脚本家の大量起用によるところが大きい)。
では『相棒』の魅力は、本質は何なのか?それは他のドラマとは一線を画す作風と本格ミステリから社会派ミステリ、対テロ事件、時には夢オチのコメディまでやってのけるその振り幅の広さではないでしょうか。小学生が殺人犯だったり、暗示で人を殺したり、社会全体の完全監視システムに主題を置いたり、そんな連続ドラマは未だかつて――少なくとも日本のものでは見たことがありません。
冷たい言い方ですが、薫ちゃんがいようがいまいが、右京さんがいなくなろうが、それは変わることのない根幹部分です。
キャラ読みは一向に構いませんし、むしろそれで門戸が拓けるなら大歓迎です。まほろさんの小説だってキャラ読み向きなんだし、どんどんキャラ読んじゃってください。けれど、キャラ読みはあくまできっかけだと思います。キャラ読みに徹し、それ以上に作品に踏み込まないとその作品の本質部分を見失う恐れがあります。トリックが素晴らしい小説の犯人だけを当てて大したことないな、と喧伝する――まさに裸の王様なわけですが、怖いのはそういった人たちが集まると力を持ってくるとこです。それこそが『相棒』のコメント大荒れ事件の元凶だったのではないでしょうか。
――と、まぁ有川さんのコメントは本来のターゲット以外の人間が手に取るきっかけを提供しているわけだから、全くもって問題ないのですけど、ちょっとそんなことを考えてしまったので。
こういう話をすると、だからミステリとか堅苦しいのは嫌なんだよ、とか思われそうですが……。
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- [ミステリ作品に関する諸考察]
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