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深水黎一郎『ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ !』

ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ ! (講談社ノベルス)ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ ! (講談社ノベルス)
深水 黎一郎

講談社 2007-04-06
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★★★☆☆

新聞に連載小説を発表している私のもとに1通の手紙が届く。その手紙には、ミステリー界最後の不可能トリックを用いた<意外な犯人>モノの小説案を高値で買ってくれと書かれていた。差出人が「命と引き換えにしても惜しくない」と切実に訴える、究極のトリックとは?


第36回メフィスト賞受賞作。
 デビュー作なのに「芸術探偵」シリーズの番外編にあたるという非常に珍しい位置づけの作品。そもそも本作を“芸術”探偵に含めて良いのかというところも疑問ではありますけど、『エコール・ド・パリ殺人事件』の中でもこの事件について触れられているし、何よりも読者が犯人なんて“究極のトリック”、芸術以外の何ものでも(ry

――で。
その究極のトリックの感想なのですが

すみません、私が犯人でし――た?

(以下、若干のネタバレ)


 まぁ確かにこの方法であれば読者=犯人にならなくもないけれど、実感が湧かないんですよね。自分自身が香坂殺害の一因になったという実感が。トリック自体は清涼院流水の『探偵儀式 THE NOVEL メフィスト症事件』のメフィスト症発症の仕組みと大差なく、ちょっとぶっ飛び過ぎな感がなくもない。『QED 式の密室』や『刀語 第一話 絶刀・鉋』のようなイロモノ系トリックを絶賛するタイプの私ですが、これはそうでもなかったり。


この作品で読者から納得できないという意見が出る理由は大きく、ふたつあると思います。

①一応、読者=犯人ではあるものの、直接の犯人である“読者”は連載小説を読んでいた人たちであること
②超能力という飛び道具を使って死んでしまったこと

 ①に関しては言い訳のしようがありません。作中でも挙げられた過去の“読者=犯人”の小説で使われたトリック――「厳密な意味の読者ではなく、作品内に存在する“読者”という存在が犯人」と同じパターンの域を出ていない点が痛い。いくら作品内でその点をフォローしようとしても、結局は私たちリアル読者が新聞連載の体裁で本作を目にしてない以上、これはやはり香坂を殺した“読者”と私たちリアルの“読者”は別物なんですよね。
 さらに意地の悪いことをいえば、作品内で語り部が「トリックを売りたいというメッセージを受けた“あなたたち”は誰一人として「母危篤~」の返信を出すことなく、1億円払って連載を打ち切らせることをしなかった」それにより、香坂が死ぬ結果に至ったというようなことを述べていますが、万が一にも本当に「母危篤~」の広告記事を出していたらどうなりました?って話ですよ。少なくとも二読目では犯行を止めなければ――或いは香坂自身からのアクションがなければ物語として破綻します。
 勿論、これは作品内の“新聞連載の読者”に対して書かれたメッセージなので我々リアル読者とやりとりが出来ないというのは当然なのですが、そうなるとやはり香坂殺しの犯人は“小説内の読者”になるわけで、避けることの出来ない矛盾が生じます。

 一方で、②に関してはそれなりに譲歩できます。まず、作中では超能力はあるかもしれない能力として描かれていることで、読者を香坂の使うトリックが超能力であってもおかしくはないという土俵に立たせています。これは例のメフィスト賞受賞作(ネタバレを避けるために名前は伏せます)と同じ構造です。
 また、実際にはこのトリック、ムリに超能力という設定を用いずとも、マイナスプラシーボ効果などでも説明できないこともありません。ここらへんは工夫次第で回避できた問題であったと思います。


――と、まぁ主題である“究極のトリック”自体には納得いきませんでしたが、ストーリーの方は結構好みだったりします。特に香坂の覚書パートとか好きすぎる。ああいったかのこちゃん世代のどこかノスタルジックな雰囲気の、友達との関係だったり淡い初恋の思い出だったり、そういう話には相当に弱いんですよねぇ~

 それにしても深水さんってどうにも自分の思いついたトリックを自画自賛する傾向があって、そこだけはどうにも馴染めません。深水さんの書く物語は好きなんですけどね。現に最近は上下巻モノでさえ避けていた同一著者の連続読みしちゃいましたし。「芸術探偵」シリーズの2作目『トスカの接吻』も早く読みたいところ。


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プロフィール

はろーすみす

Author:はろーすみす
シリーズものも平気で数年寝かせる積読家。本格ミステリとスター・ウォーズ小説を中心に読み漁り、新刊・話題作はあまり追っていません。

好きなミステリ作家は古野まほろ、はやみねかおる、西尾維新、霧舎巧。
ジャンル外では築山桂と小川一水。
講談社ノベルスをこよなく愛す特ヲタ。

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