2010.03/18 [Thu]
海堂尊『螺鈿迷宮(上)』
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★★★★☆
母は長い時間をかけて、部屋の内側に夜光貝の破片を敷きつめた。
母の心尽くしに包まれて、この部屋からみんな旅立つの
医療界を震撼させたバチスタ・スキャンダルから1年半。東城大学の劣等医学生・天馬大吉はある日、幼なじみの記者・別宮葉子から奇妙な依頼を受けた。「碧翠院桜宮病院に潜入してほしい」。この病院は、終末医療の先端施設として注目を集めていた。だが、経営者一族には黒い噂が絶えなかったのだ。やがて、看護ボランティアとして潜入した天馬の前で、患者が次々と不自然な死を遂げた!彼らは本当に病死か、それとも……。
田口・白鳥シリーズ番外編 第1作。
『チーム・バチスタの栄光』から続く一連のシリーズでは通算第3作目。
――と、まぁシリーズ区分の難しい海堂尊のメディカル・エンターテイメント作品。次作『ジェネラル・ルージュの凱旋』が今春からドラマ放映ということで、本当ならば放送に備えてそちらを読みたかったのですが、シリーズものは刊行順に読むと決めているのでまずは本作から。とはいえ『ジェネラル・ルージュ』と『ナイチンゲールの沈黙』はまったくの同時期に起きたふたつの事件を描いているので、それより1年弱後の話である『螺鈿迷宮』とは時系列が前後してしまうわけですが。ややこしいわ!海堂尊!!
今回のテーマは終末医療。余命僅かの患者のみを受け入れる桜宮病院では、患者自身に仕事を割り振ることで活力を与え、外の病院ではとっくに死んでいてもおかしくないような人たちがまるで病気だなんて嘘のように生活している別世界。普通ならそれは歓迎すべき事柄なのですが、桜宮病院の纏う独特な雰囲気と夜光貝柄の表紙絵、作中で囁かれる奇怪な噂も相まってどうにも怪しさ満点です。なんというか桜宮病院って秘密主義で一種の隔離された世界のような印象を受けます。箱庭の中では元気だけれど、決してそこからは出ることができない。桜宮の中でしか生きていくことができない彼らの存在は、外の世界から見たら既に幽霊と変わらないようにも思えます。
そして死期が迫ると移されるという螺鈿の最上階。幻想的でどこか蟲惑的な印象を受けるその描写は、まさに旅立ちのためだけに用意された部屋。明らかに現実とは異なる何かを感じさせる一種の特殊空間です。最もイメージに近いのが映画版『魍魎の匣』の冒頭、撮影所の赤い布幕がいくつも垂れ下がっている場面。或いはドラマ『ケータイ捜査官7』第18話「URL」の回のラストに辿り着いた黒のビニールテープが垂れ下がる部屋。とにかくそんな、“何か長いものがたらりと垂れ下がっている部屋”を見たときに受けた絶対的な非現実感と妙な不安感に酷似しているように思いました。
自分だけかもしれませんが、この本を読んでいると文章から本当にそんなイメージが流れ込んでくるんですね。
雰囲気やらイメージやら、実感の湧かない話だけで大変恐縮なのですが、全体像の見えない現段階で語れることは実際のところ限られていたりします。ストーリーに関する感想なんかは下巻の感想の方で改めて。
ただ、上巻のみを読了した時点での感想としては、これまで読んだ海堂作品のうちで最も面白いです。
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