2010.03/07 [Sun]
古野まほろ『天帝のはしたなき果実』
![]() | 天帝のはしたなき果実 (講談社ノベルス) 古野 まほろ 講談社 2007-01-12 売り上げランキング : 193245 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
★★★★☆
もっと救いのある音で吹け。裁きのラッパじゃないんだから。
そうしたらお前自身も救われる。もっと希望に満ちた、もっと信じた音。
90年代初頭の日本帝国。名門勁草館高校で連続する惨劇。暗号、高校にまつわる七不思議、ダイイングメッセージ……。子爵令嬢修野まりに託された数列の暗号を解いた奥平が斬首死体となって発見される。報復と解明を誓う古野まほろら吹奏楽部の面子のまえで更なる犠牲者が!
第35回メフィスト賞受賞作。
古野まほろのデビュー作且つ『天帝』シリーズ 第1作。
かつて、300ページまで読んで挫折したこの『天帝のはしたなき果実』。ようやくのリベンジです。そもそも2年前に本作を読んだときは文章を読んでも書いてあることが飲み込めない、頭の中で像を結ばない、意味がわからないと限界を感じていたのですが、それでも古野まほろという作家の可能性を信じて『探偵小説のためのエチュード「水剋火」』を読了、続く『探偵小説のためのヴァリエイション「土剋水」』で完全にファンになりました(回想終了)
『天帝』シリーズと『探偵小説』シリーズ、古野まほろと水里あかねで語り口調に多少の違いはあれど、両者共に作家・古野まほろの文章であることには違いなく、今回は1ページ目からきちんと文章を読み取ることができました。
読み終えてまず思ったのが、意外と普通にかなり真面目に吹奏楽してるなということです。作者が吹奏楽部だったこともあって、練習シーンや本番シーンはかなり臨場感溢れた仕上がりになっています。直接に音を伝えることのできない「文章」でこれを表現するのはなかなかに至難の業なのではないでしょうか。私自身は青春小説という表現はあまり好きではありませんが、部活にひたむきに打ち込む学生たちの姿を描いた学園モノの小説としても一級品だと思います。
特に第三の殺人の謎を、何故その場で解かなければならないのかというところにもそこらへんの事情が生きていて、ともすれば素人探偵はお呼びでない警察捜査の介入を排除する必然性を生じさせるところが上手いです。
上手いといえばもうひとつ。この作品でミステリ読みたちをどん底に叩き込んだ英・独・蘭・仏・伊語のルビが乱れ飛ぶ文章も世界観構成に一役買ってるところが凄いですよね。本作は設定としては90年代初頭の日本帝国ということで一種のパラレルワールドであることがあらすじでも説明されていますが、実は本文中には一切その設定は書かれていません。子爵に公爵、華族、帝都、軍人……そんな言葉を並べ立てて、簡単に世界観説明をやってのけければ確かに読者にはパラレルワールド設定なんだな、と思わせることはできるでしょう。けれど本書の場合はそれを、文章自体を豪奢に飾り、酩酊するような異質感を持たせることで、明らかに現実世界とは異なる世界であるということを、その雰囲気を読者に身をもって感じさせます。それはもう否応なく。
そして事件自体が起きるのが200ページくらい経ってからということも、それまでがこの世界観とありえないくらいに読み難い文章に馴れさせるための、一種の馴らし期間であると考えれば充分に納得できる構成です。
勿論、肝心のミステリ部分の質も高いです。第三の事件で行われた推理討論会においては、吹奏楽部員各人がひとりひとつ、状況から見て犯人(或いは犯人でない者)を絞り込むヒントとなり得る事象を挙げていき、その上でそれぞれが如何にして挙げられた条件をクリアしつつ犯人を断定させるかという推理を提示、それに対する綿密な検証が行われます。ここらへん、まほろミステリの真骨頂です。
また、ここで挙げられた仮定の論理がそれ以前の事件に一部適用できたりもして、終盤のトンデモ展開な種明かしもギリギリでフェアに留まらせています。この終盤戦、なんとなく清涼院の『カーニバル・デイ』を思い出すんですけど、似てはいないんだよね……。
あと、コモが『探偵小説』シリーズのときと大違いで驚きました。あかねの影響も大きいとは思うけれど、それを抜いても夕子や楓との絡みも含めて実予にいるときの方が圧倒的に元気で楽しそう。これが実予が帝国に誇るぞなぞなのちからなの。
はふう。
まほろ作品、現段階の好みは個人的に
ノスタルジア>ヴァリエイション>ゴシック≧インヴェンション> 果実 >エチュード
次作『御矢』も楽しみです!!
スポンサーサイト
Comment
Comment_form