2010.02/17 [Wed]
天祢涼『キョウカンカク』
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★★★★☆
――俺がヘイスティングズだって?
そいつは間違いなんだよ、音宮美夜。
女性を殺し、焼却する猟奇犯罪が続く地方都市―。幼なじみを殺され、跡追い自殺を図った高校生・甘祢山紫郎は、“共感覚”を持つ美少女探偵・音宮美夜と出会い、ともに捜査に乗り出した。少女の特殊能力で、殺人鬼を追い詰められるのか?二人を待ち受ける“凶感覚”の世界とは?
第43回メフィスト賞受賞作。
ごめん、全部読んだけど“凶感覚”なんてものは出てこなかったんだよね。
……あらすじ考えた人、絶対に作品読んでないっしょ?
さて、本作『キョウカンカク』は投稿から約2年掛けての改稿作業を経てメフィスト賞受賞に至ったという珍しい経緯を持つ作品です。どうやら世間的な評判はイマイチなようで、総じて「ラノベだろ」だとか「動機は良いけどその他は、ねぇ……」とか言われています。
確かに、音を視覚的に捉えることのできる銀髪の美少女探偵なんて、設定だけ見てみれば久住四季の『鷲見ヶ原うぐいすの論証』と対して変わらないような気もして、ライトノベルっぽくもなくはないです。が、意外と地味で地道なストーリー展開(そして地味に面白い)や気色の悪い表紙(そこ!?)も鑑みるに、やはりライトノベルではないと自分は思います。というか脱線しますけれど、あの表紙のせいでどう読んでも音宮美夜を美少女に想像することはできなくなりましたww
話を戻して。そして、ここが最大のポイントなのですが、前述のとおりこの作品、とにかく動機が斬新、新機軸。しかも音宮美夜の体質(共感覚自体は現実に存在するため“能力”というよりは“体質”というのが適当かと)である共感覚が単なるキャラ付けに終わることなく事件――ひいては物語そのものの根幹に結びついているところは賞賛ものです。
一応のところ犯人は誰かという議論は作中で為されていますが、その正体に関しては前提条件に立ち直って考えてみれば考えずともわかり切っているので、そこは重要ではありません。本作は明らかにホワイダニット。動機当てです。とにかく、終盤で語られることになる犯人の動機こそが本書の最大の読みどころ。よくよく読んでみると伏線もきちんと張られていますし(というか答えも提示しちゃってる)、そういった意味では“人を殺した人間は声の色でわかる”というJDC在籍探偵もびっくりな反則的スキルを持つ探偵を置いていても存外フェアなミステリ小説していて驚かされます。それでいて、誰もその結論に思い至らないだろうというところが凄い。
しかも、今後出るであろう続刊においても、美夜のこの共感覚の設定を上手く使えばストーリーやシチュエーションにより幅を持たせることも可能であり、その可能性は無限といっても過言ではないかと。これは期待してます、天祢さん。
しかし、助手役の山紫郎が人のことを道具呼ばわりして、いけ好かないキズタカ@『新本格魔法少女りすか』のようなヤツだなと腹を立てていたのですが、どうやらそれは幼馴染みを失ったショックからきていたものだったようで。本心からそうでなくて、良かった良かった。
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