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300冊の積読本もなんのその、本や映画の感想などをつらつらと述べてみたり。

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築山桂『てのひら一文 寺子屋若草物語』

てのひら一文―寺子屋若草物語 (徳間文庫)てのひら一文―寺子屋若草物語 (徳間文庫)
築山 桂

徳間書店 2008-08-01
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★★★☆☆
確かにお役人は金に汚いし、お金持ちは身勝手や。
そやけど、商いで儲けたお金を学問所に注ぎ込んで、貧しいひとに学問の機会を与えようて考える金持ちもおる。

親のいない三姉妹の、お香、お涼、お美和は寺子屋を開いている。貧しい子どもや、昼間は仕事で忙しい大人のために夜学の一文稽古を行っている。昼間の稽古と違って事情も年齢もばらばらな者が集まるぶん、一文稽古は何かと苦労も多い。そんなある日、大工の倅だけれど学者になる夢を追いかけるため、熱心に通っていた達次が姿を見せなくなり……。


「寺子屋若草物語」第1作。
 早くも築山桂も4作目です。淋しいもので年始に買い込んだ築山桂の小説たちも、残すはこの「寺子屋若草物語」と「一文字屋お紅実」のみ。この間読んだ『鴻池小町事件帳』は面白かっただけに単発ものだったのが惜しまれますが、今回はシリーズもの。既刊3冊、以下続刊です。やたっ!
 そうそう、『鴻池小町』といえば、本作でも鴻池善右衛門の名前が出てきました。大塩平八郎がまだ見習い与力というので時代設定的には「緒方洪庵 浪華の事件帳」よりも少し前くらいでしょうか。しかし正義漢の大塩平八郎が『禁書売り』で堅物扱いされていた理由がわかったような……。

 それはさておき本編の感想です。
 シリーズ名にもなっている『若草物語』は読んだことがないので調べてみたら、どうやら両親のいない姉妹が互いに支え合って慎ましくも逞しく生きていく様を描いた物語のようです。ふむ、なるほど。本作では両親を失い、寺子屋・三春屋を営む叔母に引き取られた三姉妹が、その叔母が亡くなった後もなんとか寺子屋を続けていこうと奮闘する物語。いままで読んできた築山作品とは異なり、三姉妹の末娘で主人公のお美和は、豪商の娘でもなければ豊家の生き残りの姫君でもないし、在天別流を知り合いに持つ後の著名人でもない正真正銘の一般の町娘。なので、事件らしい事件も起きずに日常の様子を描いていくのかな、とか思いながら読んでいたのですが――そこは江戸時代。ちょっとした問題が結果的に大事に発展してしまいました。
 まぁ、そんなことは関係なしにやっぱり面白かったですし、築山桂に全幅の信頼を置いている身としてはどちらでも良いんですけどね。

 今回は『若草物語』モチーフの寺子屋物語ということで、三姉妹をはじめとして一文稽古の寺子ら、浪人の佐十郎などの多くのキャラクターがきちんと描き分けられている上に、どれも魅力的で。彼らのやりとりを見守るだけでも楽しいです。キャラクターを楽しむ物語ですね、このシリーズは。
 特に三春屋三姉妹の次女、お涼がね。男に交じって学問所で通っていることもあり、相当に気が強くて辛辣なんですよ。男にも一切興味ナシな、そんなお涼が誰かに恋をするのをかなり見てみたい。どうなっちゃうんだろ。別にツンデレ好きなわけじゃないですけど、そこは外せないですよ、築山さん。

 さてさて。キャラクター重視の本シリーズは、事件の真相や冒険譚を描く他のシリーズとは異なり、人を想う気持ち――人の情の部分がかなりクローズアップされています。
 寺子屋姉妹の互いを大切にする気持ち、寺子と師匠の関係、お若と達次のすれ違い、佐十郎から亡き親友への友情、そしてお美和から佐十郎への淡い恋心。派手な演出や予想を裏切るような驚愕の展開はありませんが、そういったことが非常に丁寧に表されており、すとんとした心地の良い物語に仕上がっています。


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プロフィール

はろーすみす

Author:はろーすみす
シリーズものも平気で数年寝かせる積読家。本格ミステリとスター・ウォーズ小説を中心に読み漁り、新刊・話題作はあまり追っていません。

好きなミステリ作家は古野まほろ、はやみねかおる、西尾維新、霧舎巧。
ジャンル外では築山桂と小川一水。
講談社ノベルスをこよなく愛す特ヲタ。

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