2010.01/28 [Thu]
築山桂『鴻池小町事件帳 浪華闇からくり』
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★★★★☆
お嬢さんが世間知らずなのは、何も悪いことじゃありません。
ただ、こういう場所もあるんだということだけ、判ってくれたらいいんです。
大塩平八郎の乱から七年。「天下の豪商」といわれる鴻池本家の娘・澪は、病臥中の兄を見舞いにきた本家で、加賀藩の菊池兵吾と名乗る武士に襲われた。間一髪で澪を助けたのは、通りすがりの摺り物売り・孝助という男だった。だが、命の恩人だと思ったその男は、澪の兄の枕元から薬を奪い、逃げ失せてしまう。孝助の目的は何だったのか?澪は、幼馴染の奉行所同心・桐谷藤馬たちの協力を得て、真相を追い始めるが……。
絶賛読破運動中の築山桂作品。今回は『浪華疾風伝 あかね 壱 天下人の血』の解説で紹介されていた『鴻池小町事件帳 浪華闇からくり』を読んでみました。
この『鴻池小町事件帳』の主人公・澪の実家はその名のとおり『あかね』であかねを監禁した鴻池屋。200年の時を経て天下の豪商にまで成長した鴻池屋と、それをめぐる謎の連続毒殺死が今回の事件です。
澪は七年前の大塩平八郎の乱の余波で嫁いでわずか3日の夫を失った過去があり、作中では“鴻池屋の後家小町”と呼ばれています。良いとこのお嬢さんで世間知らずの澪ですが、胸に一本芯の通ったところを持っているというのはご先祖様にあたるお龍と同じで、鴻池の血は争えないといった感じですね。
また、この作品、『禁書売り』の「緒方洪庵 浪華の事件帳」から15年ほど後の時代が舞台で、本編に登場こそしませんが、大坂の適塾の緒方洪庵が澪の兄・善次郎を診たが原因がつかめないという話もでてきて思わずにやりとしてしまいます。何の役にも立たなかったな、章!どんまい。
ストーリーも、毒殺事件の犯人は?孝助の正体は?鴻池屋の秘密とは?ということに絡めて、澪だけでなく藤馬や蘭方医の志津といった若い世代、希楽、藤治郎、宗太郎のかつての浅見道場三羽烏、手代の一蔵、謎の男・孝助、さらには敵役である菊池兵吾とその妻まで、殆どすべてといって良いくらい、登場人物各人にそれぞれ抱えたバックボーンがあって、彼らの行動はすべてそれらいままでの人生に基づいてのものなんですね。だから、誰の行動にも充分に納得がいくし、その心情も痛いほどに理解できる。そうやって別々に歩いてきた道が複雑に交じり合い、絡み合っていつの間にかひとつの事件へと収束している様(“いく”ではなく“いる”というのが個人的にポイント)は本当に見事で、まさに群像劇の白眉というべき作品です。
ぱっと見、しっくりこない“闇からくり”というサブタイトルですが、“闇の計略”という意味の他に、この綺麗に収まっていく人間関係を整然と動くからくり仕掛けに喩えているのかな、と思いました。
ちょっとやるせなくて痛みを伴うラストも、実は同時に前向きだったりもして、そんな余韻を残してくれる素晴らしい作品でした。
築山桂にハズレなし!いや、ほんとに。
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