2010.01/22 [Fri]
堀川アサコ『たましくる イタコ千歳のあやかし事件帖』
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★★★☆☆
遅すぎても、初恋だったんだわ、きっと
愛人と無理心中を遂げた双子の姉。残された姪を預けるために弘前にやってきた幸代は、死者の声を聞く「イタコ」の千歳と出会う。姉の死の真相を探ろうと、幸代は千歳に協力を頼むが……超常現象をごく論理的に解明する千歳と、おばけ・幽霊の類が大嫌いなのに霊の声を聞いてしまう家事手伝い・幸代の美女探偵コンビが、次々と起こる猟奇事件に挑む。
近所の書店で見掛けて前から読んでみたかった作品だったのですが、ソフトカバーなんて高級なものには手を出せず。こまねいていたら、図書館があるじゃないか!とふと閃いて、幸い人気もなかったようで速攻借りられました(気付けよ
そうなんですよね。“本は買うもの宝もの”が信条で積読本が80冊もある人間だもの。やっぱり買って手元に置いときたい。昨年なんか図書館で借りたのはたった2冊で他全部買った本だからね、財政が破綻するわ。高級なハードカバーの類を全般的に図書館に頼るというのは案外名案かも(今さら!?
なにはともあれ、これで山口芳宏の『大冒険』シリーズも読めるわ!
――そんなことはどうでもよくて。
とっとと『たましくる』の感想に進みたいと思います。
さて、この作品はじめの一編「魂来る」はミステリですが、他3編は人は死ぬけれどしっかりミステリなわけではない。じゃあなんだろうと考えて思い至ったのが“ミステリー”でした。さしずめ、ミステリー(殺人事件)×ミステリー(幽霊)みたいな。
わかる方にはわかるだろうと思いますが第3話「インソムニア」なんかは事件というよりも幸代さんの不思議体験を描いており、それがまるでアニメ『ARIA』のよう。もっともこちらは『ARIA』と違って殺伐とした話なわけですが、あの『ARIA』にたまにある“迷い込んだ路地へ”的な雰囲気がよく出ており、単純に殺人事件を解決して終わりという物語とはひと味違った趣があります。
こういうの、好きですねぇ~(スキゾウさん風に)
趣といえば、この作品の舞台である昭和初期というのもまた魅力的です。昭和の本当に初めなので、数年前は大正、十数年前なら明治というそんな時代が舞台の本作。なので、幸代さんや千歳の生きる世界は現代とはさほど変わらないけれどどこか異質な感が漂っていて、語られる人々の物語の端々にそれが見え隠れします。たとえば、小作人の夫婦に4人目の子供が出来たものの、到底育てられる余裕はないから生まれた傍から殺してしまうだとか、口減らしで遊郭に売られるだとか(“遊郭”という言葉がなんとも昔ちっく)、なんとなく全体的に貧困の時代という感じがします。第1章の冒頭ではその“感じ”と、青森の肌寒い情景が見事にマッチし、白さ冷たさが伝わってくるかのような空気を纏っています。
言葉遣いなんかも青森の言葉というのもあるのでしょうが、幸代さんたち東京者の言葉もやっぱり若干違うんですね。よく調べて書いてるなぁと感心してしまいますし、何よりもそれを再現して読者の頭の中にきちんとその世界をきっちり構築してみせるだけの文章力が素晴らしいです。
堀川さんは他に室町時代を舞台にした『闇鏡』という作品も書いているようなので、そちらも読んでみたいですね。
勿論、「イタコ千歳のあやかし事件帖」の続刊も出ることを期待しています。
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