2010.01/13 [Wed]
築山桂『浪華疾風伝 あかね 壱 天下人の血』
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★★★★☆
茜様――いえ、姫。あなただけが天下人の血を引く姫ですよ。
それは揺るがぬ事実です。
大坂夏の陣から八年。復興に沸く町に、軍師真田幸村の嫡男・大助を伴い、天下人太閤秀吉の血を引く娘・茜が還ってきた。ともに身代わりを立て戦火を生きのびた弟を捜すために――。豊臣家の隠し財宝と、その秘密を握るとされる生き残りの姫君をめぐり、異なる思惑と野望を秘めた新興商人や幕府の残党狩りの連中が、一斉に動きだす。過渡期の町・浪華を舞台にした、胸躍る、新感覚青春時代小説。
「浪華疾風伝 あかね」第1作。
一応このブログ、ジャンルを「ミステリー」で登録しているのですが、何をまかり間違った(?)のか、2010年の読書生活は時代小説ブーム――というより築山桂祭りです。というのも、同じく築山桂の『禁書売り』を買った際にたまたま新刊で出たばかりの本書を見つけて、『浪花の華』の人の作品ならつまらないってことはないだろう、と妙な信頼感から一緒にレジに持っていったんですよね。
で、『あかね』です。何これ超面白いんですけど!!と、まぁ語彙力のない若者のように叫んでしまうくらいに面白かったです。いやぁ、まさか自分に時代小説嗜好があるとは思ってもみなかった。
ところで主人公の茜はどうにも一筋縄ではいかないというか、馴染み難かったです。辛い経験を経て今の彼女が成り立っているのはわかる。だから人を簡単には信用したりしないし、自分の身を守るためには他人を見捨てる覚悟もできている。豊臣の血を引く彼女はその血を絶やすことないよう、なんとしてでも生き残らなければならない。謝罪の意だけではどうにもならない、実が伴わなければ使えない、と基本的に上に立つ者の考え方をするんですよね。弟、国松丸の影武者が徳川の手で処刑されたことについても、憐れとは思えども「よくその任を全うした」と考える。
一方、茜に命を救われた鴻池屋の娘・お龍は茜に対して憧れに似たような感情を抱き、尋ね人の身代わりとして殺されそうになっている茜をなんとかして救い出そうとする。親近感が湧くのはお龍の方ですね。
上の者を生かすために身代わりの死は必要だったと思う茜と、たとえどんな理由があろうと身代わりで罪もない人を殺させはしないというお龍の対比にもなっています。
そんな茜に降り掛かるのが、母・天秀尼から発せられる衝撃の言葉。そういう可能性はあるかもしれないと薄々感じながら読み進めていたのですが、まさかその先にもうひとつの衝撃の事実が隠れていようとは。終盤のその台詞で物語が一気にひっくり返されて、その“もうひとつの衝撃の事実”を知る前と後とでは物語の見え方が全く変わってくるかと思います。再読したら尚、楽しめそうです。
そして解説でも触れられていますがこの作品、作中で明言されてはいませんが「緒方洪庵事件帳」で左近殿が属する大坂の守り神、在天別流も絡んできます。作品の最後の方で弓月王という名前が出てきますが、『禁書売り』では触れられてはいなかったものの、実はドラマ『浪花の華』では左近殿の兄、上総は弓月王と呼ばれており、おそらくはその名前は在天別流の頭目に受け継がれているものだと思われます。あちらとは200年もの年代差がある『あかね』ですが、作品を跨いでこういったリンクがあるのも嬉しいです(というか『あかね』の購入を決めた理由のひとつがそれだったんですけどね)
次巻は3月発売とのこと。
そんなに待てない!
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