2009.12/20 [Sun]
西尾維新『難民探偵』
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★★☆☆☆
エドガー・アラン・ポーが一八四一年に『モルグ街の殺人』を発表したのを、仮に推理小説の起源とするなら
――以来百七十年。こんな悲しい謎解き解決編、しかしさすがに世界初でしょうね。
就職浪人の窓居証子は、叔父で人気作家の窓居京樹の家へ、やむなく半年の期限でお手伝いとして住み込むことに。そんなある日、根深陽義なる怪しげな人物の身元引受人をという警察からの連絡が、京樹の携帯に入る。その一本の電話が、すべての始まりだった!ネットカフェ在住の元警視庁警視・根深陽義、就職浪人・窓居証子、人気小説家・窓居京樹が京都で発生した殺人事件の謎に挑む。
講談社100周年記念書き下ろし100冊企画。
西尾維新の最新作は、なんとびっくりネットカフェ難民や就職浪人、大規模リストラなどを題材にした社会派ミステリ。イラスト無しのハードカバー、ノンシリーズという形式から考えても西尾維新初の“一般向け”小説であることはまず疑いようがありません。従来の西尾作品の対象がラノベ読者層かどうかは別として、あくまでも“ミステリ読者向け”ですからね。売れているとはいっても一般人が手に取る機会――というか目に触れる機会自体が少なかったというのが、おそらく現状。これを機に門戸が広がってくれれば、これ幸いなのですが。
ていうか紙が安っぽすぎて本屋で戦慄しちゃったんですけど、何これ?本を閉じた状態で見ても明らかに紙質悪いのがわかるとか問題でしょ、普通に。せっかくのハードカバーなのに……。1600円も出してるだけにかなり損した気分。
(以下ネタバレあり)
そんなわけで維新ぼんの今後の活動的にも結構重要な役割を担ってきそうな本作ですが、本格ミステリを期待していた自分としては事件内容が地味でちょっと拍子抜け。とはいえ、トリックどばーんっ!犯人うおおぉおい!!みたいな展開でこそありませんでしたが、不可解な犯行状況の理由付けなどのミステリ部分はロジカルでさすがは西尾維新、地味ながら充分に水準に達しているかと思います(何様だ
地の文の言い回しなんかもやっぱり西尾維新。お初の方々にはなかなか新鮮なんじゃないでしょうか。
逆に、登場人物は普段の西尾キャラに比べたらおとなしく、あくまでリアリティを貫いているので(何年も前に辞表を出したのに受理されていない警視がリアリティなのかは疑問符が付くところですが)全体的に盛り上がりには欠けるものの、その盛り上がり切らない感じが逆に、“事件”に関わったりしたところで証子の人生には何の変化も起きないという事実を暗示しているようでもあり、上手く雰囲気を作っています。大きな展開が起きない、その一種事務作業的な単調さが、人生は決してドラマチックではない、という言葉をまるで体現しているみたいな――そんな印象を受けました。
そうはいっても終盤、証子の「自分があそこで何もしなかったところで結果は何も変わらなかった」とかいう感じの自嘲気味なモノローグがあったりするのですが――ただ、それをしたことで「自分を嫌いにならずに済んだ」というのですが、そこがこの作品のいちばんの肝ですよね。人生はドラマチックではない。事件に関わる前とその後、何も変わったことはない。大きな変化もなく、証子にはまた履歴書を書き続ける日々が待っている。傍目から見れば何も変わらない毎日。それでも、あの時の発言が、ほんの少しだけだけれど固くなってしまった心に滴を落としたのは確かで――って、なんか素敵じゃないですか?
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