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ポール・デイヴィッズ&ホレス・デイヴィッズ『スター・ウォーズ 帝国の復活』

スター・ウォーズ (1) 帝国の復活
ポール デイヴィッズ ホレス デイヴィッズ
偕成社
売り上げランキング: 82,378
★★★☆☆
ダース・ヴェイダーの手袋を持つ者が帝国を受け継ぐ! 皇帝の座を狙う怪人、トライオクユーラス。彼は、暗黒の予言に導かれ、暗黒卿の手袋を求めて、水の惑星カラマリへと向かった。ルークたちは、帝国の復活を阻止できるか?


「ジェダイの王子」第1作。
 『EP6』から1年後、パルパティーン亡き後に混乱極まる帝国に皇帝の息子を名乗る男・トライオキュラス(作中ではトライオクユーラスと表記されています)が現れ、再び銀河の覇権を手中に収めんと台頭するジュニア小説です。スピンオフの設定が固まる以前の最初期にリリースされたレジェンズ小説でもある本シリーズは、そのあまりにぶっ飛んだストーリーから後年にはSカノンに位置づけられています。
 中古市場では電撃文庫の「Xウイング・ノベルズ」、サンリオの『侵略の惑星』に次いでプレミア価格が付いている一方、学校や図書館における所蔵率は比較的高く、新三部作世代には意外と目にする機会の多かった馴染みのある作品かもしれません。

 この“Sカノン”とは現在のスピンオフ区分である正史(カノン)の意味とは異なり、レジェンズ作品内における設定の序列を表す言葉で、新旧三部作の映画を指すGカノン(ジョージ・ルーカス・カノン)、テレビシリーズであるTカノン(テレビジョン・カノン)、その他の小説、コミック、ゲームから成るCカノン(コンティニュティ・カノン)、一部設定のみ取り入れられるSカノン(セカンダリー・カノン)、そして非正史扱いのNカノン(ノンカノン)に階層分けされており、各作品の間に矛盾が生じた場合はより序列の高い媒体の設定が優先される、というものです。
 本シリーズではパルパティーンの息子、続刊に登場するジェダイの王子ケンといった後年構築されていく世界観からはあまりに浮いた諸々が「さすがにこれは……」とアウト判定を食らい、いわゆる黒歴史扱いされています。
 とはいえSカノンの名前の通り別の作品に吸収された設定や、お遊びなのか本気なのか本作の出来事を匂わせるようなセリフも登場するため、私としては「積極的に言及はされないが確かにあったお話」くらいの認識で捉えています。『TCW』の存在が既存のクローン大戦関連作をあやふやにしてしまったように、「SW」ファンは設定の齟齬に多かれ少なかれ自分で折り合いをつけていかなければなりませんからね。「Medstar」二部作が『TCW』にてバリスが離反した原因、という俺設定だって構わないのです。

 今作で最もエポックメイキングな要素はやはり“皇帝の息子”トライオキュラスの存在です。ケッセルの奴隷王にして異形の三つ目を持つ彼との、帝国復活を賭けたヴェイダーの手袋争奪戦がメインストーリーとなります。パルパティーンに付き従った暗黒面の予言者が皇帝の後継者がその手に嵌めていると語るダース・ヴェイダーの手袋は権力の象徴であり、真実かどうかわからない血筋以上に説得力を持つとの論法ながら、強大な力で銀河を支配した皇帝の配下に過ぎないヴェイダー卿のちっぽけな装身具に、その後継者となるハズの偉大な人物が踊らされる逆転した図式はなかなかに皮肉が効いています。
 舞台をケッセルからモン・カラマリへと移し、挿絵の印象も相俟って三下っぷりが炸裂するトライオキュラスとルーク&アクバー提督のタッグにより繰り広げられる争奪戦は大人の目線からするとややしょぼく、良くも悪くもジュニア向けらしい冒険譚といえばそうなのですが、いざすべてが明らかになってみるとそれらに妙に納得できてしまうのがミソでしょう。案外これが「ハンド・オブ・スローン」の元ネタなんじゃないでしょうか。
 後半、モン・カラマリがフィーチャーされることもあり、「SW」小説には珍しい海洋アドベンチャーに仕上がっているのも本書の特徴で、それに伴いモン・カラマリの海に古くから共存し極めて高い知能を誇る巨大海洋生物ホエーラドンの密漁=捕鯨問題もテーマになっているのも異色です。単に「SW」のいち物語で終わらせるのではなく、現実を投影した問題提起とメッセージ性が込められ、児童書としての志の高さも感じられました。


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はろーすみす

Author:はろーすみす
シリーズものも平気で数年寝かせる積読家。本格ミステリとスター・ウォーズ小説を中心に読み漁り、新刊・話題作はあまり追っていません。

好きなミステリ作家は古野まほろ、はやみねかおる、西尾維新、霧舎巧。
ジャンル外では築山桂と小川一水。
講談社ノベルスをこよなく愛す特ヲタ。

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