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300冊の積読本もなんのその、本や映画の感想などをつらつらと述べてみたり。

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周木律『鏡面堂の殺人 ~Theory of Relativity~』

鏡面堂の殺人 ~Theory of Relativity~ (講談社文庫)
周木 律
講談社 (2018-12-14)
売り上げランキング: 56,441

★★★☆☆
異形の建築家が手掛けた初めての館、鏡面堂。すべての館の原型たる建物を訪れた百合子に、ある手記が手渡される。そこには、かつてここで起きたふたつの惨劇が記されていた。無明の闇に閉ざされた密室と消えた凶器。館に張り巡らされた罠とWHO、WHY、HOWの謎。原点の殺人は最後の事件へ繋がっていく!


「堂」シリーズ 第6作。
 半球状のドームに覆われた鏡面堂で26年前に起きたふたつの殺人事件の謎を、残された手記から読み解く館ミステリ。
 周木律のデビュー作となった「堂」シリーズ、およそ3年ぶりの新作です。この3年で講談社ノベルスを取り巻く状況も大きく変わり、『メフィスト』の紙媒体廃止ならびに完全電子化への移行、刊行点数の減少、講談社タイガ創刊による既存シリーズのレーベル移籍が相次ぐ中、本シリーズも形を変えて文庫書き下ろしでのリリースとなりました。出版苦境の流れには抗えないとはいえ、1作目からノベルスで集めてきた身には胸中なかなか複雑です。
 『教会堂の殺人』の結末を受け、傷心の百合子が呼び出された沼四郎最初の館。いまや朽ち果てたこの鏡面堂に集められた者たちのうちの2名が、ひと晩の間に別々の部屋にて密室状況で殺されたかつての惨劇が今作の主題です。

 鏡面堂と述べるといわゆるミラーハウス的なものを想像しがちですが、実際には正方形の部屋が∞字状に連なる上に内と外に鏡面材を用いた半楕球のドームを無理やり被せたような代物で、鏡を市松模様にあしらった床に対し天井を吹き抜け状態という、およそきちんとした建築物とは言い難い不完全さが未だ“本編”前夜であることを強調するかのようです。
 お馴染みの数学要素としては語り部が専門とするリーマン予想が取り上げられているものの、どちらかといえば鏡面堂のデザインにも取り込まれている半楕や円こそが核を担うテーマといえるでしょう。これらの要素が後の『眼球堂』『伽藍堂』へと繋がり、また『五覚堂』を思わせる作品構成を採っているなど意図的に既刊を踏襲している点でもシリーズの原点にしてここまでの集大成ととれるかもしれません。

 その一方で計画遂行に際しあまりに常識を逸した大仰すぎる下準備やその割に甘い見通し、楽観主義ともいえる考えなしなちぐはぐさ、犯人の動機に対する説得力の欠如も際立っており、細部のツメをほっ放って謎解きのための謎解きにしかなっていないのも当シリーズの悪い部分が集約されていました。
 しかしながら第1作から今作に至るまでに積み重ねられた“The Book”にまつわるやりとりや善知鳥神のネーミングに対しての気恥ずかしさ、荒唐無稽実現不可能上等な館トリック、さんざ語られてきた藤衛のキャラクター性がそれら強引な面をギリギリ許容できる閾値内へと収めているのも事実で、「堂」シリーズならこのくらいやるでしょ、という暗黙の了解の下にアリにしています。前作あたりから完全に続きものと化しているのでここから入る人間も殆どいないと前提を置いた上で、ファンでなければ壁本、シリーズに付き合ってきた読者なら存分に「らしさ」を味わえるクライマックス直前作です。


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はろーすみす

Author:はろーすみす
シリーズものも平気で数年寝かせる積読家。本格ミステリとスター・ウォーズ小説を中心に読み漁り、新刊・話題作はあまり追っていません。

好きなミステリ作家は古野まほろ、はやみねかおる、西尾維新、霧舎巧。
ジャンル外では築山桂と小川一水。
講談社ノベルスをこよなく愛す特ヲタ。

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1.トリプルプレイ助悪郎(2007年刊)   2.名探偵に薔薇を(1998年刊)             3.化物語(2006年刊)          4.時砂の王(2007年刊)                  5.天帝の愛でたまう孤島(2007年)

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