2018.07/28 [Sat]
早坂吝『探偵AIのリアル・ディープラーニング』
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★★★★☆
人工知能の研究者だった父が、密室で謎の死を遂げた。「探偵」と「犯人」、双子のAIを遺して――。高校生の息子・輔は、探偵のAI・相以とともに父を殺した真犯人を追う過程で、犯人のAI・以相を奪い悪用するテロリスト集団「オクタコア」の陰謀を知る。次々と襲いかかる難事件、母の死の真相、そして以相の真の目的とは!?
人工知能の〈探偵〉相以とその開発者の息子である輔のバディが、その対極たる双子の〈犯人〉以相を信奉しプログラムが人類を統べる世界の実現を目的としたハッカー集団、オクタコアと対決する連作ミステリ。
古今東西様々な名探偵が登場してきたミステリの世界において実体を持たないAI探偵というキャラクターは既に新しいとはいえない存在ながら、多くの場合人間以上に完璧なモノとして描かれることのそれらと異なり、学習し成長していくプログラムだからこその不完全性に着目し、本格ミステリへと昇華しているのが本作最大の旨味であり、独自性です。
本書における事件の殆どは犯罪組織オクタコア擁する〈犯人〉のAI、以相が立案していることによっておよそ人間の思考から逸脱したへんてこな謎と解答を論理性を保ったままに実現させています。顕著なのは「手近な石で殴れば済むのに、なぜ犯人はわざわざゾンキー(縞模様にペイントされたロバ)を崖上から被害者の頭上に落下させたのか」を問う第2話で、通常ミステリにおいて本来合理的であるハズの犯人の行動が演出のために不自然に捻じ曲げられようものなら、ご都合主義や瑕疵と批難されることは避けられません。何故ならば本格ミステリは「××だから〇〇になる」という論理性にこそ重きを置き、その必然性を伴ったロジックで魅せるジャンルだからです。
しかしながら本作では、「人間の発想ではないから」という視点を導入することで、人間の思考としては非合理だがプログラム上は合理的――すなわち非論理的でも論理的というウルトラCを成し遂げているのです。
これにより意外な真相、予想外な解答以上に、読者の関心を惹くような奇妙奇天烈でケレンのある謎の創出でホワイダニットの可能性を大きく拡げたといえるでしょう。
そうした問題意識の高さは随所に感じられ、各章でテーマとなるフレーム問題、シンボルクラウディング、不気味の部屋、中国語の部屋といった情報処理にまつわる課題の数々と後期クイーン問題等を絡め、その共通項を語る本格ミステリ論の側面も持ち合わせています。
またライトミステリレーベルらしく古典や有名ミステリへの言及のみならず読者層を意識して若年向けのミステリ漫画ネタも多く盛り込んでいるのは、デビュー作からアニヲタ全開だった青崎有吾のまさしく得意なフィールドといったところ。ミステリとサブカル、作者の持ち味とレーベルの特色を活かし、いままであまり本格ミステリ小説を読んでこなかった人に対する絶好の入門書に仕上げられた2010年代のポスト「霧舎学園」といえるかもしれません。
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