2018.03/18 [Sun]
泡坂妻夫『迷蝶の島』
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★★★☆☆
太平洋を航海するヨットの上から落とされた女と、絶海の孤島に吊るされていた男。一体、誰が誰を殺したのか? そもそもこれは、夢か現実か? 男の手記、関係者の証言などで、次々と明かされていく三角関係に陥った男女の愛憎と、奇妙で不可解な事件の、驚くべき真相とは!?
ヨットを通して知り合うことになった3人の男女による痴情の縺れが生んだ謎多き遭難事件の顛末を綴る長編ミステリ。このところ復刊が続く著者の1980年に発表した第5長編で、こちらも復刊ミステリに力を入れる河出文庫の泡坂妻夫3作連続刊行企画の第3弾です。
太平洋の大海原を漂う救難ボートからひとりの女性が救助されるのに端を発する物語は、絶海の孤島に辿り着いたとある青年がそこに至るまでの過程を語る手記と捜査担当者による聞き取り、救出された女性による述懐の3章から構成されていて、照りつける太陽と潮風香る別荘地でのセレブな大学生と大病院の令嬢、彼女の友人で大学のOGでもある女性との出逢いの日々はまるで異国の物語であるかのようです。
遮るもののない青い海と航海、暴風雨と無人島、蘇っては殺しに戻ってくる死者、幻想的なモチーフとして登場する黒蝶というどこか浮世離れした道具立てに彩られる外国映画の如きロマンスは、時に美しく純情で、時に官能的でさえあります。その広大なスケール感にあって、至極シンプルで現実的な、小手先ともいえるトリックのミニマムさがギャップとなって最大効果を生んでいるのです。決してトリック一辺倒ではなし得ない、ちゃちでありきたりな仕掛けをストーリーひとつでこれほどにも映えさせる手腕こそが作者の小説家としての技量の高さでしょう。
強いて申せば、オチを想定して書かれたためか些か都合の良すぎる箇所が見受けられる点で、一応の予防線がないではないにせよ読者を想定せずに記されたという体ですべてを告白している手記において、執筆者にとっていまさら損にはならないであろう情報が抜け落ちているのは“物語の外”に向けたサプライズの演出以上の必然性を欠いているのでは、と感じなくもありませんでした。
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