2018.03/05 [Mon]
蒼井碧『オーパーツ 死を招く至宝』
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★★★☆☆
貧乏大学生・鳳水月の前に現れた、顔も骨格も分身かのように瓜二つな男・古城深夜。鳳の同級生である彼は、OOPARTS――当時の技術や知識では制作不可能なはずの古代の工芸品の、世界を股にかける鑑定士だと高らかに自称した。水晶の髑髏に囲まれた考古学者の遺体、夫婦の死体と密室から消えた黄金のシャトル……謎だらけの遺産に引き寄せられる ように起こる、数多の不可解な殺人事件。難攻不落のトリックに、変人鑑定士・古城と巻き込まれた鳳の“分身コンビ”の運命は?
第16回このミステリーがすごい!大賞受賞作。
赤の他人なのにそっくりな見た目を持つふたりの大学生がオーパーツこと“場違いな工芸品”の絡んだ殺人事件を解き明かす連作ミステリ。宝島社にしては珍しいくらい正統派な本格ミステリであり、昨年このミス大賞の超隠し玉と銘打たれ刊行されるも諸々甘いところもあって厳しい評価を下さざるを得なかった村上暢『ホテル・カリフォルニアの殺人』と比較しても違いは歴然でした。胸を張って本格と名乗れる内容です。
この手のジャンルでよく取り扱われる超能力や心霊現象ではなく、実在のオーパーツを題材に蘊蓄を交えたミステリとなっているのも超常現象ファンとしては嬉しいところで、かつて学研M文庫より発売された未確認生物(UMA)がテーマの田中啓文『UMAハンター馬子』と並び、『ムー』系ミステリの新定番になり得る作でしょう。
収録作は水晶ドクロ、黄金ジェット、恐竜土偶、ストーンヘンジをそれぞれフィーチャーした短編4本に後日談を加え、どれも物理トリックが主体となっています。中でも投稿時、表題作にも掲げられた「十三髑髏の謎」が突出していて、唯一の出入り口としてネコ用のドアのみを有した鍵の掛かった部屋にて、十三個の水晶ドクロに囲まれ何らかの儀式に見える形で絶命した被害者というオーパーツに相応しいオカルトめいたシチュエーションの密室が明瞭且つ機械的に紐解かれる快作です。
その他の3篇はそれほど独自性が高いとは言い難く、紛れもなく本格と呼べる水準にはあれど多作な作家の単行本ならともかく、ミステリ系新人賞の受賞作として改めて送り出す意義を持っているかと些か押しが弱いかもしれません。作者がメフィスト賞の下段で常連だったらしいのにも妙に納得です。どちらかといえば鮎川賞向きなような。
ユニークなのは後日談において連作短編型のミステリに常ともいえるどんでん返しを敢えて手放している点です。4本の短編に仕込まれた共通項を指摘した上で、真犯人の炙り出しやさらなる真相の開示といった本格ミステリ的構造には持っていかないことでオカルティックな側面をより強め、作品に合致したテーマ性を深めているのはオーパーツという主題を活かしたぴったりな落とし方でした。
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