2018.02/18 [Sun]
麻見和史『警視庁文書捜査官』
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右手首のない遺体が発見された。現場に残されたのは、レシート裏のメモと不可解なアルファベットカード。「捜査一課文書解読班」班長で極度の文字マニア、鳴海理沙警部補に、出動要請が下る。遺留品のメモから身許を特定した理沙は、被害者宅にあった文章から第二の殺人現場を発見。そこには、またもアルファベットカードが残されていた。共に見つかった手描きの地図が示す所を探すと――。理沙の推理と閃きが、事件を解決に導く!
「警視庁文書捜査官」第1作。
警視庁の窓際部署、捜査一課文書解読班の鳴海理沙と部下で相棒の矢代朋彦が現場に残された遺留物を解読し、連続する事件の真相に挑む警察ミステリ。極度の文字フェチを自認するヒロインを主人公に、文章心理学に基づくインスピレーションによってメモ書きや地図、メッセージともとれるアルファベットカード群から事件を照らす異色の警察小説です。
遺留品の中でも特にメッセージ性の強い文書や筆記物に特化した部署という着想がまず斬新で、臨場先で目にする一見意図のわからぬ文章が否が応にも読者の心を惹き付けます。文書解読班なる特異な設定を持ち込むことで警察小説枠組みの中で暗号もののミステリを実現せしめてしまったのはさすがは鮎川哲也賞出身者といったところ。人気の根強い警察小説のジャンルで如何に本格ミステリとしてアプローチしていくのかがよく練られています。
少ない文言で表現される限られた情報から推理を重ね、次々と視界が開けていく『九マイルは遠すぎる』的な理沙のアプローチは安楽椅子探偵のそれにも近く、導入部で矢代に対して披露してみせるちょっとした謎解きも少し頼りないながら名探偵と呼ぶに相応しいです。ひとつの謎が解かれ、訪れる先でまた新たな暗号が目の前に現れる展開はゲームブックのようでもあり、警察小説のフォーマット以上に純粋な謎解きをメインに据えているのがわかります。
反面、本人も述べているとおり牽強付会で場当たりな、精密さよりも当たって砕けろで勝負に出ている点も多く、どれだけ正確な答えを導き出せるかよりも、より多くの選択肢を提示することに主眼を置いた手法は文章の秘める“可能性”の大きさを実感させてくれるでしょう。
捜査の進捗において事件ごとに謎をピックアップし、フローチャートに整理することで思考を視覚化、鮮明化するなど過程の面でも文字の持つ効果を最大限伝えるのに買っており、本格作家だから書ける一風変わった“文書”ミステリとなっていました。
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