2018.01/08 [Mon]
G.K.チェスタトン『ポンド氏の逆説』
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★★★★☆
温厚で小柄な紳士ポンド氏には、穏当な筋のとおった談話の最中に奇妙な発言をまじえる癖があった。二人の意見が完全に一致したために片方がもう一人を殺した。背が高すぎるが故に目立たない……など、辻褄の合わないポンド氏の発言が明らかにする不可思議な事件の真相。
逆説の名手、チェスタトンがそのものスバリをタイトルに掲げた連作ミステリ。会話の端々で一見して矛盾するようなことを述べては周囲を戸惑わせるのが癖のポンド氏が語る逆説に満ちた8つの物語が収められています。
“背が高すぎて見えなかった”、“食い違う3つの証言はすべて同じ意味”、“自他共に罪を認めているのに逮捕も追放もされない”など、相反する状況が生み出す珍奇な一文の裏にあるお話によってそれらが合理的に絵解かれていくだけでなく、完璧な警備体制の下から輸送される荷物を盗み出す方法やバカミスもかくやなトンデモ物理トリック、さらには某有名古典ミステリにオマージュを捧げた作など遊び心に溢れているのも大きな特徴です。
新訳版といえど良くいえば格調高く、悪くいえば難解な文章は集中して噛み締めないとなかなか頭に入ってこず、さながらポンド氏の言動のようでもあり若干難儀しました。
その中でも「黙示録の三人の騎者」と「博士の意見が一致する時」はそれぞれ“捕らえられた詩人を放免する書状を持った男が殺されたため釈放された”、“ふたりの意見が一致したので殺人が起きた”飛び抜けてシンプルに真逆の状況が実現する2篇です。各章共に単純な字面の奥に綿密な設定と物語が敷かれ、パズルゲームの如き法則性に基づいて機械的に当事者の行動を決定してしまう純粋な論理のみに立脚したつくりに惚れ惚れします。
最も突出していたのはパーティー会場での指輪盗難と人死にを描く「恋人たちの指輪」でしょう。衆人環視下での物体消失トリックとコーヒーを飲んだ人間が死亡した事件の真相を組み合わせ、その動機を逆転の発想で着地させます。それだけでも充分お腹いっぱいなのに、さらにそこから数章前に言及された出来事を引っ張ってきて、傍観者として参加していた人物を当事者のひとりに叩き込む視点の転換を極める凝りようはとても30ページの短編で見せるボリュームの謎解きではありません。よくぞここまで盛り込んだものです。
単体のエピソードでは「恐ろしき色男」が寓意に満ちた謎解きの後に逆説を利かせたオチで〆ているのも大層素敵で、逆説に特化した連作でありながらあの手この手と多岐に渡るアプローチで飽きさせない短編集でした。
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