2017.12/20 [Wed]
デライラ.S.ドーソン『スター・ウォーズ ファズマ(上)』
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★★★★☆
狡猾で無慈悲なファースト・オーダーの指揮官のひとり、キャプテン・ファズマは、上官や同僚からの信頼が厚く、敵には恐れられる存在である。その名声にもかかわらず、クロミウム製のヘルメットに隠された真実を知る者はいなかったが、あるひとりの人物により、彼女の謎めいた過去が今ついに、明らかになろうとしていた……。
ヴィレッジブックスから刊行中の「スター・ウォーズ」スピンオフ、邦訳最新作は「ジャニー・トゥ・最後のジェダイ」の1冊で続三部作のメインキャラクターのひとりキャプテン・ファズマの過去にスポットを当てた『ファズマ』です。原書の発売が今年9月でしたのでなんとたった3ヶ月での邦訳版リリースになります。
映画本編での活躍については近々アップする予定の『EP8』の感想記事に譲るとして、依然謎の多いファースト・オーダーの女戦士のオリジンに迫る小説ということでその内容に興味のある人も少なくないのではないでしょうか。もし買おうかどうか悩んでいるのであれば迷わず手に取りましょう、大変面白い作品でした。
本作は『EP7』の6年ほど前、レジスタンスのスパイであるヴィー・モラディーがファースト・オーダーで新兵の教官を務める赤い装甲服の男、カーディナルに拿捕されるところから始まります。ファズマを危険視し、その正体を掴もうとするカーディナルの尋問が行われる28ABY頃を現代パートとしつつ、ヴィーによって語られるファズマの故郷とファースト・オーダーに加わるきっかけとなった10年前の出来事とが交錯する形で綴られます。
ファズマの一族サイアが暮らすパナソスは数世代以上昔に文明が崩壊し衰退した惑星で、その環境は極めて過酷。毎年上がる潮位を避けてわずかな岩場に身を寄せ合い、もう何年も新たな子供は産まれない。ケガをすれば即感染症に蝕まれ命を落とす。テクノロジーからは隔絶され、少数の仲間たちがほんの小さな生活圏を守るため隣り合う敵としのぎを削る。
そんな破滅に彩られたおよそ人の棲めない惑星に、ある日空からひとつの宇宙船が堕ちてくる。それがブレンドル・ハックスでした。このブレンドル・ハックスはご推察のように続三部作にてカイロ・レンと共に最高指導者スノークに仕えるアーミテイジ・ハックスの父親で、この出会いをきっかけにファズマはファースト・オーダーへとその身を寄せることとなります。
われわれが知っている「スター・ウォーズ」の世界では惑星間航行は当たり前の技術であり、宇宙へ飛び出したことのあるなしに関わらず、自分たちは銀河の一員で外には大きな世界が広がっていることを認識しています。しかしながら本書で登場するサイアの民は残された遺産から過去に機械を用いた文明が存在していたことはうっすらと了解しているとはいえ、実際にそれらを見たことはなく、かろうじて壊れたブラスターと有機物から成分を抽出する装置が伝わっている程度、動いているドロイドや自動ドアすら目にしたことがない存在で、そんな彼らの前に遥か宇宙の彼方から得体の知れない技術をもった人間が降り立つ未知との遭遇を果たすのです。
即ちブレンドルとサイアの民との邂逅はファーストコンタクトであると言え、ここまで純粋にSFの文脈に則った物語を「SW」小説の中でやってのけたのは衝撃でした。映画の主人公たちが大々的に活躍するわけでも反乱組織と帝国軍とが戦争するわけでもない、歴史の荒波に揉まれた人々にフォーカスするのでもない。「スター・ウォーズ」ユニバースの中で人々と宇宙の関係を変えたその瞬間を描いているのです。
無限に広がる砂漠、血を好み肉を食らう甲虫、遺棄された都市群、人が消えても百年間かつてのルーチンを繰り返すドロイドたち――墜落したブレンドルの艦を探す旅路でファズマたち一行が出くわすもの、それらに怯え、心動かされ、同情を寄せるシヴら登場人物たちの機微に感じ入り、パナソスの苛烈な自然と悠久に忘れ去れた過去の遺物に想いを馳せる。
ファズマというメジャーなキャラクターの個人史でありながら、“銀河を知らない若者たちが初めて目にする世界”という従来の邦訳されてきた「SW」スピンオフとはまったく異なる読み口を提供してくれます。
現代パートでヴィーから情報を引き出そうとするカーディナルの人物像も魅力的でした。ジャクーの孤児だった過去を持ち、ブレンドルに拾われ厳しくも豊かな生活を手に入れた彼はファースト・オーダーが自分のような貧困に喘ぐ人々にとっての希望であり、安息と秩序をもたらすと心の底から信じており、ファズマを排除しようとするのも野心からではなく純粋にファースト・オーダーへの背信を懸念してのことで、理想に燃える気高き精神の持ち主です。トルーパーの教官を務める彼は生徒たちにも慕われ、すれ違うトルーパー候補生に会釈や手を振り返したりもする気の良い人間なのです。
実直で不器用ともいえるその気質は尋問台に縛り付けられたヴィーにさえ好感を抱かせるほど。かつての帝国に良識をもった軍人が多く在籍したように、悪逆非道の限りを尽くすファースト・オーダーにもそういった人物がいたんですね。決して政治家向きでなく、策謀を巡らせるタイプではないけれど彼のような人間が舵をとっていればファースト・オーダーの在り様もまた変わっていたかもしれません。
また、FOトルーパーの訓練プログラムが明らかにされたことで、『覚醒前夜』や『EP7』にて語られた幼少時に誘拐されたフィンがジャクー襲撃で初の実践だった旨への違和感にすっきりとした解答が与えられたのも収穫でした。
ところでブレンドルらと共に砂漠を往く過程でトラブルからドロイドに連行された、無人のまま稼働を続ける鉱業施設でファズマが最初に手に入れたアーマー一式がどうにもボバ・フェットのもののように思えるのですけれどどうなのでしょうか。
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