2017.12/17 [Sun]
カミ『ルーフォック・オルメスの事件簿』
![1fb655b91e8c5d5d7e3f980740dae24d[1]_convert_20171217154534](https://blog-imgs-116.fc2.com/v/y/g/vyg/20171217154650d42.jpg)
★★★★☆
シャーロック・ホームズ研究家の北原尚彦氏を編者に迎え、2016年に創元推理文庫にて刊行された新訳版『ルーフォック・オルメスの冒険』に収録されなかったルーフォック・オルメス作品「黒い天井」「トンガリ山の穴奇譚」「処女華受難」を収録。3編の他にも北原尚彦氏・横田順彌氏の書下ろしオルメスパスティーシュも収録しています。
「ルーフォック・オルメス」第2作。
昨年、東京創元社よりリリースされた『ルーフォック・オルメスの冒険』から取り零された既訳の「オルメス」ものを蒐集し、盛林堂ミステリアス文庫の1冊としてまとめた良書です。様々な形で日本に紹介されつつも現在では気軽に読むことのできなくなってしまった短編たちを先行する他社本を補う形で拾ってくれるのは大変嬉しく、シリーズを通して手元に置いておきたい身にも助かりました。
収録作は短編2本に中編1本、それを基にした絵物語1本と編者である北原尚彦、SF作家の横田順彌の手になるパスティーシュ2本を加えた6篇構成。戯曲形式の『冒険』とは異なり小説の体裁をとっているのが大きな特徴で、昨今の本格ミステリに登場してもまるで遜色のない不可能犯罪じみた謎から、カミにしかできない現実を超越した――されど不思議と文字の上では合理性を保った解決に収める不思議な味わいが魅力です。
1篇目の「黒い天井」はカフェの店内でまるで見えない手に掴まれたかのように人が中空に持ち上げられ、殺される今回最もミステリ色の濃い作です。バカミスもバカミス、机上の空論であることは重々承知の上で某超有名古典をさんざん引き合いに出すことによってきちんと伏線の敷かれたブラッシュアップ版にしてしまっているのです。“なっている”のではなく“してしまう”。これを怪作と言わず何と言いましょう。「トンガリ山の穴奇譚」も夜中のホテルに響く女の声というヒキの強い謎が主題ながら、おかしなことをおかしなまま自然に受容してしまうオルメス節は健在で、ユーモア溢れる怪異譚となっています。
続く「処女華受難」は本書の目玉となる中編。貞操を守るため令嬢の処女膜を取り外して冷蔵庫に保管、人工膜に交換することでいくら火遊びしても純潔は守られるといったトチ狂った発想はもはやミステリどころかスチームパンクの域です。ヒロインをつけ狙う魔人マカルイユが跳梁する大捕り物が、いつの間にやらモンスター・パニックさながらの大騒動へと発展していくトンデモ展開は後に絵物語として再編集されて紹介されたり児童向け(!)翻案小説が発刊されるのも納得のインパクトある、唯一無二な珍品でした。
北原、横田両氏によるパスティーシュもトリックの方法論やぶっ飛んだ推理に「オルメス」らしいくだらなさが滲み、早々に売り切れたと聞き無事入手できて良かったです。
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