2017.11/29 [Wed]
相沢沙呼『マツリカ・マトリョシカ』
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★★★★☆
柴山祐希、高校2年生。彼は学校の近くにある廃墟ビルに住んでいる謎の美女・マツリカさんに命じられて、学校の怪談を調査している。ある日、偶然出会った一年生の女子から『開かずの扉の胡蝶さん』の怪談を耳にする。密室状態の第一美術室で2年前に起きた、女の子が襲われるという事件。解決されないまま時が過ぎ、柴山の目の前で開かずの扉が開くことになったが、そこには制服を着せられたトルソーが、散らばる蝶の標本と共に転がっていた。現場は誰も出入りできない密室という状況で再び起きた事件。柴山が犯人と疑われてしまう事態になってしまい……。彼はクラスメイトと共に、過去の密室と現在の密室の謎に挑む!!
「マツリカ」シリーズ 第3作。
2年前と現在、第一美術室で起きた2つの密室事件の真相を紐解く学園ミステリ。“柴犬”こと高校生の柴山が廃ビルに住まう
ただしその趣は大きく変わっており、これまでは基本的に柴山が足で稼いできた情報からマツリカさんが快刀乱麻にぶった切る安楽椅子探偵型の連作短編形式であったのに対して、今巻では全体を通してマツリカさんの出番は極めて少なく、柴山とその友人らがにわか探偵団を結成してそのメンバーがディスカッションを重ね、各人が推理を披露し合う多重解決もの体裁が採られています。人付き合いが苦手で内向的、心に傷を抱えて生きてきた柴山がマツリカさんに頼ることなく仲間たちと共に事件に挑むストーリーラインは既刊2冊の事件を通して構築された人間関係と信頼、成長があったからこそ成り立つもので、多くの学園ミステリにおいて当たり前のように行われているにわか探偵団による探偵活動というお決まりの図式が物語上の必然性を伴っているのが大変素晴らしいです。安楽椅子探偵=マツリカさんからの独立、多重解決スタイルであることが青春ミステリというテーマにおいて大きな意味を持っているのです。
過去に文化祭準備期間中、第一美術室準備室にて気を失った女子生徒がカッターで傷付けられ発見された事件と、それを模倣するかのようにとまったく同じ部屋、同じ状況にてトルソーを用いて再現された現在の騒動――作中で過去密室、現代密室と呼称される2つの現場はそれぞれ環視による心的密室と施錠による物理的密室と異なる条件で構成された似て非なるものであるのも面白いところ。
解決編における怒涛ともいえるロジックはその一方でフェティシズムに溢れており、その執拗なまでに鋭い検証がそのまま偏執的で変態的な思春期男子の妄想を掻き立てるあたりは疑いようもなく相沢沙呼の相沢沙呼による相沢沙呼のためのミステリです。あけすけなエロではない、あくまでも服の上からなぞるようなチラリズムは上品ですらあります。
徹底したロジックにより、一度は検討された単純すぎるトリックを浮かび上がらせるギャップも効いていて、有無を言わさぬ勢いで一気呵成にまくしたてるマツリカさんの推理パートが、さながら飼い犬を侮辱された彼女の怒りを表現しているかのように感じられるのもミステリの様式と物語性の相乗効果を生んでいます。失礼ながら、相沢沙呼がここまで書けるとはシリーズが始まったときには考えてもみませんでした。
犯人の社会的立場を鑑みると主にトリックの下準備の面で実現可能性にやや疑問符がつかないこともありませんが、許容できる範囲でしょう。敢えて申せば、もうひと声そこを補強する記述があればより完璧な出来になったかなと。
柴山祐希の物語としても本格ミステリとしても大きく飛躍した感があり、さらなる続編に期待が高まります。
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