2017.11/17 [Fri]
大樹連司『GODZILLA 怪獣黙示録』
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★★★★☆
紳士淑女の皆さん、私たちはどうやらこれまでのようです。さようなら。さようなら。
神よ、英国と陛下を守りたまえ。
ゴジラ――かつて万物の霊長を僭称していた我々は、あの恐るべき怪獣と出会い、戦い、敗れて地球を追われた。当時最前線の兵士だった者、彼らを指揮する将官あるいは政治家、科学者だった者、あるいは一般市民、幼い子供だった者。これはそんな一人一人が語った、抗戦と敗北の記録である。果てしない絶望の日々を、人々はいかに生き抜いたのか?――謎に満ちたアニメ映画版『GODZILLA』の前史を読み解く唯一無二の小説版。
いよいよ公開された「ゴジラ」シリーズ初の長編アニメ映画『GODZILLA 怪獣惑星』。その前日譚であり、地球が如何にして怪獣たちの支配下に置かれることになったのか、人類が故郷を離れるまでの経緯とはどのようなものだったのかをインタビュー形式のモキュメンタリーで記すスピンオフ小説です。
人類が地球を追われ2年万年、かつての故郷を奪還すべく宇宙に逃げた人々が怪獣惑星と化した母なる大地に再び降り立つ、という新作映画のあらすじを聞いたとき、極めてリアリティに即したシミュレーション映画で日本における特撮史を塗り替えた『シン・ゴジラ』とはまったく真逆の設定に驚いたものですが、かつてまだ人類が健在だった頃、世界各地の様々な人々の視点からその“始まり”を切り取ってみせたのが本書です。
1995年、世界で初めて怪獣が確認されたカマキラスによるNY襲撃。その記憶が風化しつつあるタイミングでやってきた第二波たるロンドンのドゴラ、怪獣殲滅用として研究開発された兵器が裏目に出て甚大な被害を齎した中国のヘドラ、体内から吐き出す有害物質により広域海洋汚染のきっかけを作ったオーストラリアのダガーラ。そしてエクシフ、ビルサルドの両異星人とのファースト・コンタクト――。プレスリリース配布時、前情報として公開された「人類の生存圏確保に関する合理的選択についての提案」に沿う形でそのとき何が起きたのかを関係者の目を通して語られ、映画本編に対する理解がより深まると共に、メジャー級からマイナーどころまで取り揃えた東宝怪獣総進撃、若しくは東宝オールスター・ファイナル・ウォーズとでもいうべき大盤振る舞いなサービスっぷりと小ネタの数々は「ゴジラ」ファン、特撮ファンであれば滾らないハズがありません。
98年のハリウッド版『GODZILLA』(いわゆる『エメゴジ』)が『FW』同様ジラと呼称されて登場し、怪獣王ゴジラと性質こそ異なれど特徴的には似た部分も多くあり、その繁殖力と敏捷性により人類にとってとてつもなく厄介で絶大な驚異となった云々の扱いには「やっぱりマグロ食ってるようなのはダメだな」とさんざバカにされネタにされてきた『エメゴジ』ファンの留飲を大いに下げてくれました。このエメゴジや『VSビオランテ』ではG細胞から生み出されたビオランテをゴジラと同種の怪獣かもしれないと指摘することでアニメ映画本編に登場するセルヴァムのゴジラの亜種であり飛行型という物議を醸しそうな設定をスムーズに受け入れられる土壌を敷いている点も上手く、オリジナルとなった各映画の内容を『怪獣惑星』の世界観の下に再構築することでまったく新しく、しかしあくまでも旧来の「ゴジラ」シリーズの延長戦上にある「ゴジラ」映画を作り上げることに成功していると既にこの時点でいえましょう。
今作は地球連合政府とエクシフ、ビルサルドが協力してゴジラと怪獣たちに対し一矢報い、反撃の狼煙を上げたところで〆られており、その語り部の名と共に映画に繋ぐ形で終わります。1本の独立した小説として面白いかどうかは自分が「ゴジラ」ファンであることもあって正直なところ判断はし難いです。しかしながらこれだけは間違いなく断言できるのは映画を観る上で絶対に外せない副読本であり、「ゴジラ」や東宝怪獣特撮を愛する者にとっては最初から最後まで楽しめる最高の1冊であるということです。
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