2017.11/16 [Thu]
東川篤哉『ライオンは仔猫に夢中 ~平塚おんな探偵の事件簿(3)~』
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★★★☆☆
〈ライオン探偵〉生野エルザ&美貌(自称)の助手・川島美伽。ガールズ探偵、危機一髪!? 絶対に負けられない、プライドを懸けた“謎解き”がいま始まる! 不運続きの二人に降りかかる、難事件と災難の雨あられ。転落死した社長令嬢の部屋から赤いハイヒールが消えたのはなぜ? サークル一の美人女子大生が死に際にVサインを残したわけは? 独居老人の最期を見ていた鸚鵡が命を狙われる理由とは? 海の家で出会った女性をイケメン英会話講師が捜すわけとは? 愛と推理とガールズトークあふれる〈生野エルザ探偵事務所〉は、今日もなんとか(?)営業中!
「平塚おんな探偵の事件簿」第3作。
平塚のライオン、生野エルザと猛獣使いで助手の川島美伽が活躍するローカルミステリの第3弾。東川節炸裂の会話劇と抜群のキャラクター性で笑わせてくれるノリは今巻も変わらず、毎度楽しみにしているシリーズです。
収録されているのは「失われた靴を求めて」「密室から逃げてきた男」「おしゃべり鸚鵡を追いかけて」「あの夏の面影」の全4篇。行動派のエルザが平塚中をあちらへこちらへと駆けずり回り、ときに依頼人の、またあるときは己の利益のために真相究明に奔走します。今巻では仔猫をタイトルにするだけあって4篇中2本が動物メインの作品でした。
個々の出来としては前半2篇が特に良く、一見筋が通っているようでいてよくよく詰めていくと物事の順番がおかしいことが明らかとなり、その不可解な行動を軸に改めて状況をバラし組み立て直す手際はもはや職人技です。合理的に思える状態→浮かび上がる不自然さ→再整頓といった手順で、間違った完成図からパズルのピースをあるべき場所へと正す。これをさも簡単なことのようにいとも容易くちゃちゃっと書き上げてしまうのだから怖ろしい(実際にどれくらいの労力が掛かっているのかはわかりませんが)。
シンプルなようで入り組んで、さりとて煩雑になりすぎないわかりやすさが東川ミステリ最大の魅力でしょう。
注目は新たに生野エルザ探偵事務所のメンバーに加わるミーコが初登場を果たす第2話「密室から逃げてきた男」。密室の中に死体と無実を主張する依頼人、仔猫が1匹というストレートな短編です。決められたアクションを想定し難く、本来であれば不確定要素として扱われ得るモノを構成要件に取り込み、歯車のひとつとして機械的なメカニズムで密室を完成させるばかりか、同時にトリックに用いられた証拠の回収までをもやってのける一石二鳥な仕組みは生き物を主題にしたタイトルに相応しい。そこからさらにフーダニットにまで繋げてしまうつくりにも舌を巻きました。
反対に次話の「おしゃべり鸚鵡を追いかけて」はアンチミステリ風なアプローチが微妙な肩透かし感を生んでおり、変に先進性を希求した捻くれた内容よりも実直なロジックと謎解きこそが作者の持ち味を遺憾なく発揮できるフィ-ルドであると改めて認識させられました。
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