2017.11/02 [Thu]
岡田秀文『帝都大捜査網』
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★★★☆☆
昭和十一年、夏。死体が発見されるたびに、なぜか刺し傷の数がひとつずつ減ってゆく。殺された男たちのあいだに交友関係などは一切見つからず、共通しているのは全員が多額の借金を背負っていたことのみ。警視庁特別捜査隊は奇妙な連続刺殺事件の謎を追い、帝都全体に捜査の網を広げてゆくが――。捜査隊隊長が目の当たりにした、事件の異様な構図とは?
昭和の初め、東京を騒がせる連続殺人の顛末を追った長編ミステリ。 『黒龍荘の惨劇』では本格ミステリ大賞にもノミネートされた時代作家、岡田秀文の新作です。
毎日ひとつずつ新たな死体が発見され、その度に傷口の数が減っていく猟奇的で意味深な謎の提示が大層興味をそそり、冒頭から読者の心を捉えます。陣頭指揮をとる特別捜査隊の隊長は事故で家族を失った傷を心に抱えながらも、探偵小説好きで好奇心旺盛なひとり娘のアドバイスに従って事件の核心へと迫っていく――ものだとばかり思っていたら、主軸はむしろ期せずして奇妙な猟奇殺人の加害者サイドに回ることになってしまった男の巻き込まれた悲喜劇の方であり、そちらの視点が大部分を占めているのは予想外でした。
そのためいわゆる警察小説のように情報を足で稼いで推理していく描写は殆どなく、大捜査網と銘打つほどのスケールや緊迫感が見られないのは看板に偽りありと申しますか。タイトルから受ける印象と実際の内容が大きく乖離しています。
こういった猟奇ものを扱う際に議題の的として掲げられることの多い、生前の人生に接点がないと見られる被害者同士を結ぶミッシングリンクも単なる借金苦というだけで物語上特に秘されておらず、事件の裏で行われる人生を賭けた総取りゲームのじゃんけんトーナメントもコンゲーム的な駆け引きが明暗を分ける頭脳戦とはとても言えません。
アガサ・クリスティの“十二の刺傷”にインスパイアされた作品でありながら探偵役が真相を看破する爽快感とはまた別の、あくまでもサスペンスとして視点人物と共に転がされる面白さを重視した作風は本格読者には物足りなさが残るところ。申し訳程度に小技を効かせて、ちょっとしたフェイントとミステリとしての演出を補ってくるあたり、作者も案外それを自覚していそうです。
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