2017.09/29 [Fri]
詠坂雄二『T島事件 絶海の孤島でなぜ六人は死亡したのか』
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★★★☆☆
月島前線企画に持ち込まれた、既解決事件。孤島に渡った六人が全員死体で発見されたが、当人たちによって撮影された渡島から全員死亡までの克明な録画テープが残っていた。何が起こったかはほぼ明確だ。警察はすでに手を引いている。ところが、依頼人は不満のようだ。真実が映っていなかったのか、あるいは嘘が映されていたのか――。目を眩ませる膨大な記録と、悲喜劇的な顛末。事件の背景に浮かび上がる、意外な真相とは!?
「月島凪」シリーズ 第8作。
フェイクドキュメンタリー企画のロケハンで無人島を訪れたスタッフ6人全員が命を落とした事件を、遺されたビデオを元に改めて検証し直すミステリ。名探偵、月島凪擁する月島前線企画に持ち込まれた事件を作家である詠坂雄二が小説に仕立てたという体の作品で、 撮影補助の青年が映したカメラ映像に寄った過去パートと月島前企でそれを眺めて討議する現在パートとの2視点が交互に語られます。
本作の特徴は手持ちカメラによるいわゆるPOV形式で事件を追い、上陸から最後の死者が出るまでの一部始終が記録されたホラー映画のようなつくりです。ホラー映画界隈では1999年の『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』ヒット以降、大のPOVブームが到来し『クローバーフィールド』など歴史に名を刻む衝撃的な作品を生む一方、あからさまな低予算を誤魔化す手法としてまさに玉石混交、ハイクオリティなものからどうしようもないレベルまで数多の映画が送り出され、昨今ではそうした状況から一周回って壮絶な地雷原となりつつあります。
そんな“一市民の視点”に寄り沿ったホラー映画的演出を本格ミステリに持ち込んだらどうなるのか?といった試みであるのですが、視覚に囚われない活字上においてビジュアル効果は無いに等しく、結果から述べると何ら意味を成していません。そもそも映像媒体における劇中人物と観客の視点の同一化を本でやろうとすれば一人称小説になるわけで、むしろ当然のように用いられている手法なのです。そこに気付かなかった時点で盛大にミソがついていると言わざるを得ません。
登場人物をして地味な事件、がっかり感の強いと言わしめる真相も端的にいってイマイチです。そうした不完全燃焼な解決を真相そのままに「補遺」において後から補填していくことで強固な推理へと固めていく点は一見ロジカルな充足感があるものの、冷静になって振り返ると第一の解決で行われた解決が敢えて雑に行われたにすぎず、ぶっちゃけてしまうとしょっぱい事件の全容を推理のやりようによってなんとなくで満足度を底上げし、フィニッシング・ストロークでドローにまで持ち込んでくるのは小憎らしいと言いますか、小狡いと言うべきか。実に省エネな作品です。
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