2017.07/19 [Wed]
獅子宮敏彦『上海殺人人形』
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★★★☆☆
1920年代の国際都市、上海。様々な勢力が暗躍する魔都で起こる連続不可能犯罪事件。現場に残されたカード、密室状況……。しかしそれが解かれても、真犯人・上海デスドールの姿はとらえきれないでいた。
上海の闇に跳梁する暗殺者・上海デスドールによる奇怪な殺人の数々を、冴えない新部記者が追う連作ミステリ。
獅子宮敏彦のおよそ3年ぶりとなる新作は世界情勢がキナ臭くなる前夜の上海を舞台にアクロバティックでバカミス上等なトリックがこれでもかと炸裂する、作者の持ち味全開な1作です。高級ナイトクラブの人気No.1にして上海の夜に咲く“ピュアドール”の異名を持つヒロイン、犯行現場に常にカードを残し演出過剰なまでに不可能犯罪を徹底する殺人者と大時代的な雰囲気づくりもミステリー・リーグらしさに溢れています。
かつてノックスの十戒では「中国人を登場させてはならない」というルールが提唱されました。これは当時のイギリス人にとって中国は未知なる文化圏であり、東洋の神秘が何でもありを可能にする方便に使うことへの警句であったことから、国際理解が進んだ現代においてはいわゆるネタ扱いをされることが少なくありません。ところが本作では1920年代の上海という魔都が漂わせる何とも言えない胡散臭さ、得体の知れなさが荒唐無稽で開いた口の塞がらないようなトリックを“破天荒で実現性皆無なファンタジー”から現実的なラインにまで引き下げる役割を果たしていて“この舞台設定ならアリかもしれない”と思わせてくれます。中国人だからこそ、このミステリが成り立っているのです。
愉快犯じみた暗殺者が敢えて不可能性の高い犯罪に挑み、装飾過多な演出を行う理由付け、行動の矛盾を炙り出して指摘していく点などロジック部分も悪くなく、ミステリにおけるツッコミや命題をクリアしていく問題意識の高さも感じられますが、フーダニットは完全に捨ててしまっているのがやはり瑕でしょう。推理の過程で読者を振り回そうとも、最後にはあらすじを聞いた段階で誰もが想像した場所に何の衒いもなく着地してしまうため、すべての意外性を殺しています。
結果、見どころがなかったわけではないにせよ予定調和な凡作――犯人がわかりやすすぎているぶん下手をすればそれ未満、といった評価に収まってしまったような。終わり良ければすべて良しとはよく言ったものです。終わり方、大事です。
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