2017.06/08 [Thu]
ジェームズ・ルシーノ『スター・ウォーズ カタリスト(下)』
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★★★★☆
ジェダイなら、ここはフォースが強い、と言うでしょうね
クローン戦争は終結し、新たな時代が訪れた。だが、同時に最も暗い星が昇りつつある……。アーソ一家を分離主義者の手から救い出し、ゲイレンがエネルギー研究を続けることができよう環境を整えたクレニックだったが、それはデス・スター建造をついに実現させるという計画のためだった。エネルギー研究の成果は純粋に利他的に使われると信じていたがゲイレンだったが、妻ライラは夫の変わり様とクレニックの不可解な行動に疑問を持ちはじめていた――。
「スター・ウォーズ カタリスト」下巻。
『EP3』の2年後、17BBYに突入しいよいよ本格的に動き出すデス・スター計画。それに伴ってゲイレンはそうとは知らずカイバー・クリスタルの研究に一層のめり込むようになり、愛すべき家族との距離が徐々に離れていることにさえ気付かない。ジェダイ・オーダーが崩壊したことでカイバーを容易に入手することが可能となって計画全体が飛躍的に進んだ反面、これまで秘されてきたクリスタルの構造分析とエネルギー転用に時間が掛かったとしたのは上手いですね。『EP3』ラストでお目見えされたデス・スターの完成に19年の歳月を費やした事実に対する理屈付けとして、レジェンズの政治上の問題で度々停滞せざるを得なかったという設定よりも自然です。
デス・スターの絶大な威力の源をライトセーバーと同一に求めたことが皮肉となっているに留まらず、有無を言わさず納得させる説得性も備えています。『Ahsoka』で物議を醸したライトセーバーの新設定はむしろ、『ローグ・ワン』制作に合わせてこちらの方面を強化する狙いが大きかったのかもしれません。
時代設定が17BBYなのも珍しいです。旧レジェンズでは何だかんだで新旧三部作の間の出来事は『EP3』直後の18BBYか『EP4』直前に偏っていたため、共和国→帝国の変遷期から少し先の新体制が根付き、落ち着きつつある本作のような年代はあまりなかったように思います。そんな中で、辺境に着々と手を伸ばし強引な手段で帝国に組み込むやり口やコルサントに僅かに残る保護区さえも開発してしまう慈悲の無さは後に見る帝国らしく、そんな銀河の向こうの出来事や大局などまったく関知しない一般人同然の視点が大きく取り上げられているのが『カタリスト』の特色にして興味深いところです。
そうしたこともあってか、本作では皇帝の代わりに表舞台を取り仕切るマス・アミダの出番が多く、殆ど全編出ずっぱりなのには驚きました。パルパティーンがおいそれとは名前を呼んではいけないあの人になってしまった以上、マス・アミダが名実共に帝国の“顔”なんですね。映画本編でもパルパティーンの側近として印象を残していたとはいえ、よもやカノンでここまで出世しようとは。デンガー、タッグ、ナイン・ナンと並んでカノン化によって大きく救済されたキャラクターではないでしょうか。
パルの腹心といえばスライ・ムーアの姿が影も形もないのですけれど、出身惑星のアンバラでは反抗運動が続いているとの記述と関係があるのかないのか……。男女の違いはあるとはいえ『EP7』から始まる続三部作の最高指導者スノークに似ているだけに気になります。
もうひとつのブリッジ要素としてはソウ・ゲレラの登場も見逃せません。言わずもがなソウは『ローグ・ワン』冒頭にてライラが斃れゲイレンがクレニックに連れ去られた後、ジンを引き取って育てた人物ですが、『クローン・ウォーズ』で初登場を果たした頃からバリバリの好戦派で、根っからの研究者一家であるアーソ夫妻と友人関係にある点にいまいちピンとこないものがありました。しかしながら本書を読んで納得、ライラとゲイレンがクレニックに疑惑を抱くきっかけを与えた密輸業者ハズ・オビットを通してアーソ一家と知り合ったわけですね。
ハズは元より行く先々でたくさんの大人たちを魅了し、誰にでも懐く幼いジンは成長後の芯の強い彼女とはまた違った愛くるしさです。他の登場人物たちと比べてセリフに漢字を使わず、会話文がひらがなになっているのも細かく、これは翻訳者さんGJでしょう。
ちなみにライラはフォースを操ることはできずとも何となく感じ取ることはできているようで、この辺の描写はチアルートのそれと同様のものなのかなぁと。『反乱者たち』のベンドゥの教えを含め、カノンの「SW」ユニバースはフォースについてジェダイやシスの教義にあるライトサイドとダークサイドとは別の視点で語られることが多く、フォース感応者/非感応者に関わらず銀河全体がフォースを中心に回っている印象です。
個人的にはカノンのこのフォース観はあまり好きではないのですけれども、それはともかくこのフォースに善悪も光と闇も存在せず“ただフォースがある”という考え方から『EP8』ひいては続三部作の「最後のジェダイ」というワードに繋がっていくのかな、と予想しています。
しかしまあ上巻の感想でも書いたとおり、クレニックが帝国への野心を捨ててゲイレンがもっと早い段階で研究の誘惑を断ち切れていればふたりには幸せな人生も待っていたような。ゲイレンを逃したクレニックの怒りは裏切られたそれをぶつけたというよりも、友に理解されなかった悔しさの方が大きいように感じられました。
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