2017.05/31 [Wed]
ジェームズ・ルシーノ『スター・ウォーズ カタリスト(上)』
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★★★★☆
戦争に見つかってしまった。
共和国と分離主義勢力の争いはさらに熾烈さを増し、双方が新兵器の開発に躍起となる中、共和国軍少佐オーソン・クレニックは、最高議長の機密機関である先進兵器研究部の代表として、敵勢力を圧倒する超兵器の開発を迫られる。クレニックの命が懸かった超兵器開発計画の成功の鍵は、気鋭の科学者でありクレニックの盟友でもあるゲイレン・アーソが握っていた……。
カノンの邦訳「スター・ウォーズ」小説最新作は昨年12月に公開された実写劇場用映画初のスピンオフ作品『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』の前日譚、『カタリスト』! 本国では映画に1ヶ月先駆けてのリリースだったので、なんと発売半年での日本語版刊行という驚異のスケジュールです。
『ローグ・ワン』の主人公、ジンの父親にしてデス・スターの開発者であるゲイレン・アーソとその妻ライラ、共和国で特殊兵器部門を担うオーソン・クレニックが中心となる本作は、『ローグ・ワン』『クローン・ウォーズ』での展開を踏まえた新たなカノンとしてのデス・スター建造計画の全容を描いた物語です。旧レジェンズではレイス・サイナーやベヴェル・レメリスクといった錚々たる面々が参画し、モー秘密研究所やデスペイヤーといったロケーションからプロトタイプの存在、デス・スターの乗員たちの視点で完成前夜に迫る小説『デス・スター』の存在など、その経緯はギチギチまで凝り固まっているほどでしたが、そうした旧設定をすべて刷新し、信頼と安心のジェームズ・ルシーノの手によって「スター・ウォーズ」におけるデス・スターのオリジンが再構築されています。
『EP4』に直結する『ローグ・ワン』の過去編が新三部作時代の、それも『CW』の真裏を舞台にしていたのは意外でした。前線で戦うでもなく、まともな戦況すらも耳に入ってこない民間企業で働く一介の銀河市民であるアーソ夫妻の視点は“歴史の横道”と呼ぶに相応しく、いつの間にか戦争が激化し、ある日ぴたりと終わってしまったことにも蚊帳の外の出来事のようで実感が沸かない。好きな研究に没頭し、一家3人でただ平穏に暮らせればそれで良い。そんな彼らがクレニックの策謀によって銀河の命運を握る悪魔の兵器に関わるどころかその中心に気付かぬままに据えられていく様は、劇的な何かが起きて状況が変化するより断然恐ろしいです。
とはいえ『ローグ・ワン』の経緯や筋だけ聞けば目的のためにあれこれ手を回し、友を利用するのも厭わない冷血漢の見えて、クレニックは実に人間的魅力に溢れたキャラクターでもあります。学生時代のどんちゃん騒ぎが伝説になっていたり、女性に一切興味なしなゲイレン・アーソが恋をしたと聞かされてその相手がどんな人物なのか気になって仕方なかったり、友人自らデス・スター開発に参加するよう仕向けと思ったら予想外にも一緒に会社を興すことを提案されてお口あんぐりでその提案に一瞬揺らいでしまったり――。クレニックはフューチャーズ・プログラムで出逢ったちょっと変わった天才をよく理解していながらその突飛な行動にしばしば振り回され、ゲイレンはクレニック本人以上にオーソン・クレニックの資質と人となりをわかっている。
結局のところクレニックは有能だけど常人なんですよね。どんなに頑張ってもヴェイダーやターキンといった歴史に名を残した人物たちとは並び立てない。だからこそより野心を抱き、より高い地位に就くことも渇望する。でも、その終着点がわれわれのよく知る『ローグ・ワン』の結末なわけで。
学生時分から共和国で働くことを目標にしてきたクレニックだが、彼にはもっと適した居場所(=自分と新しい会社を立ち上げる道)があるんじゃないかと思うゲイレンからすれば、裏工作であくせくコネを作りパワーゲームに苦心する今の姿はクレニックらしさを殺した状態に見えていたんでしょうね。この小説を読んでクレニックというキャラをかなり気に入りました。
『ローグ・ワン』のベイズとチアルートはもしかするとクレニックとゲイレンの“あったかもしれない姿”だったのかもしれません。
ゲイレン・アーソの内気で人付き合いが苦手だが頑固、研究を前にすると寝食も忘れ、思いつくと途端に怒涛のように喋り出す性格付けも従来の「SW」にはなかったタイプのように思います。しかしそこは父親、生まれたばかりのジンの瞳の色がまだらに見えるのを星のようだと表現し、スターダストと称するシーンには思わず「繋がった!」と手を叩いてしまいました。スターダストという愛称にはそんな美しい意味が込められていたんですね。
またデス・スター建造計画に絡んでポグル大公が主要人物のひとりになっているのも見逃せないポイントです。デス・スターの建設にジオノージアンが大きく関わっていたことは『EP2』や『反乱者たち』、コミック『ダース・ベイダー』で明らかながら、そこに『CW』で捕まったポグル大公を絡めることで共和国により推し進められたことへの必然性を与え、且つ打ち切りにより『EP3』との間に生じてしまった『CW』で収監されたポグル・ザ・レッサーが『EP3』でジオノーシスにて殺害されている矛盾についても明確なアンサーを用意しているのです。実際、この辺の流れは実にスマートで後付けによって設定面がサグラダ・ファミリア状態に陥っていたレジェンズの何倍もわかりやすく整理されているのではないでしょうか。
気になったのは計画には以前からターキンが関わっていたという話もある、との記述で『ターキン』の内容と擦り合わせるとターキンがデス・スターに関わるようになったのは14BBY以降となるハズ。これは旧レジェンズ時代にはデス・スターが『ローグ・プラネット』でゾナマ・セコートの存在を知ったターキンの案に端を発していたことへの目配せかしら。
まああくまでもクレニックの聞いた噂でなので齟齬と言うにはオーバーにせよ『ターキン』『カタリスト』『ローグ・ワン』と時系列があっちゃこっちゃ飛んでいるので自分も細かい部分で理解が追いついていないかもです。
代わりといっては何ですが、デス・スターの球形が意志ある惑星ゾナマ・セコートを模した設定から通称連合のコントロールシップの発展型という形で落ち着かせたのはなるほどなぁと。
デス・スターにはライトセーバーの核と同じくカイバー・クリスタルが用いられているという近年敷かれた設定を大きく掘り下げている点にも注目です。オーダー66後のアソーカを主役にした小説『Ahsoka』においてライトセーバーの設定変更がなされ、日本でも大きな話題となったのは記憶に新しいところですけれど、本作でもそれに倣い“生物と無生物の中間的性質”を持つ生きた鉱物、カイバー・クリスタルはデス・スター開発を要とする本書では重要な位置を占めています。生きたクリスタルというと、アナキン・ソロがライトセーバーに使っていたユージャン・ヴォングのランベント・クリスタルみたいなものなのかな。デス・スターにも使用されるカイバーは特殊な内部構造のみならず近くにいる人間に不眠を引き起こす副作用もあるらしく(フォースで繋がろうとしている?)良い面ばかりとは言えない代物です。
その性質と希少性故にジェダイは神聖なモノとして扱い、簡単には触れさせぬよう守ってきた一方、強大なエネルギーを生み人々の生活を豊かにする可能性を秘めたそれを己が利益のために独占してきたとヘイトを煽る要因にもなっているのが絶妙です。これによりパルパティーン殺害未遂の謀反による信頼の失墜をさらにダメ押し、帝国がカイバーを集める大義にもなっている。上手いこと考えられています。
カイバーのもたらす効果が必ずしも人々にとって“善”とはいえないあたりも今後の「SW」ユニバースに対する含みのように思えます。
ちなみに本作ではなんと「NJO」でチューバッカ亡き後、ハンの相棒を務めたドローマの種族リンがカノン入りを果たしており、レジェンズファンには嬉しいニュースでした。さすがはルシーノといったところです。
というわけで、下巻に続く!
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