2017.05/29 [Mon]
芦沢央『雨利終活写真館』
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★★★☆☆
巣鴨の路地裏にひっそり佇む、遺影専門の写真館。祖母の奇妙な遺言が波紋を呼ぶ(「一つ目の遺言状」)。母の死を巡る、息子と父親の葛藤(「十二年目の家族写真」)。雨利写真館に残る1枚の妊婦写真の謎(「三つ目の遺品」)。末期癌を患う男性の訳ありの撮影(「二枚目の遺影」)。撮影にやって来る人々の生き様や遺された人の人生ドラマを見事な謎解きで紡ぎ出す。
失恋の傷も癒えぬまま祖母の遺書に託された謎を知るべく遺影専門の写真館を訪れたヒロインが、お客としてやってきた人々の抱える事情と残された禍根を溶かすべく奮闘する連作ミステリ。
『許されようとは思いません』で本ミス2017で第13位にランクインした著者による終活をテーマにした1作です。昨年度の本ミスはノーマークの作品、作家さんが多く個人的にはかなり意外な結果だったのですが芦沢央もそのうちのひとりでした。
本作は4話構成となっていて、亡き祖母の遺した奇妙な、そして理不尽な遺言書からヒントを掻き集め本当の目的に至る暗号モノ「一つ目の遺言状」が特に抜きんでています。終活とは自らの人生を振り返り、締めくくる行為であり、そこには長い年月の間に蓄積された想い出とパーソナリティがすべて詰まっている。だからこそ、過去を振り返る作業が直接的に謎解きへと繋がっていく。かつて新本格は人間が描けていないと揶揄されましたが、本書においては推理を行う作業そのものが故人(まだ亡くなっていないパターンもありますが)の生きてきた道を語ることでもあるのです。
一方でそれ以外の3本はタネに見当がつきやすく、情報が出揃わない段階からヒロインが真相をコレと決めつけ飛びついてしまうため作者が先走って誤導しようとしているようで、どうにも上滑っているように感じてしまいます。また件の「一つ目の遺言状」についても謎解きはともかく、実用性とは異なる部分で果たしてそれで価値を担保できているのかが門外漢には少々疑問。そこまで突っ込むのは野暮とは思いつつもあと一歩のフォローが欲しくもありました。
いま流行りのいわゆる“ほっこり”系のように作り上げようとすればもっとハートフルで優しい世界にできそうなところを敢えてそこまで踏み込まず、人間関係に解決の糸口だけ見せて後は各人の未来に任せる押しつけがましくない温かさはこの手の作風としてはなかなか異色で、良い意味でドライな距離感も新鮮です。
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