2017.05/15 [Mon]
青柳碧人『西川麻子は地理が好き。』
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★★★☆☆
老富豪は土蔵に閉じ込められて死んでいた。事故と思われたが、なぜか床は一面、真っ赤に塗られていて――完全犯罪に挑むのは「地理」をこよなく愛する地理ガール探偵、西川麻子。遺言状に隠された地図記号の暗号、アフリカの湖にまつわる意外すぎる犯罪ほか、世界地理のトリビアで6つの謎を解き明かす。
「西川麻子」シリーズ 第1作。
学習塾を舞台にした『国語、算数、理科、誘拐』から始まる「JSS」シリーズの登場人物のひとり、西川麻子を探偵役に据えたスタンドアローン作です。
「浜村渚」の数学に対して地理に特化した教科別の“お勉強”作品ではありますが、あちらほどぶっ飛んだ設定や世界観にはなく、教育系出版社に勤めるフツーの編集者である麻子が恋人の刑事から聞き知った事件を地理の知識で解いていく連作短編です。作者の本業が塾講師、それも社会科の担当ということもあってその本領たるフィールドでの満を持してのミステリといえましょう。
無意味なキャラ付けの変人が出てくる悪ふざけ加減も青柳碧人らしいです。
ダイイングメッセージの在り処を示した「メッセージはベルトの跡に」、アリバイ崩しが主題の「グンカンドリの気が早い犯罪」、動機が焦点の「青山士よ、永遠に」など収録された6篇はひと口に地理ミステリといえども内容に富んでいて、それぞれに印象的なモチーフが使われます。実際のところ、それらが謎と上手に噛み合っているかというとそうでもありません。
暗号ものである「大将の地図記号」は謎解き、オチの付け方共に優れているものの、多くは犯行の成功は厳密性にご都合な面が否めないし、被害者が犯人の行動を完璧なまで予期しているなどの不自然さも残ります。ジャンルネタのミステリにありがちな専門知識に依った解決もあり、話によってはアンフェアな感も拭えません。
とはいえ一見、平凡な事件に世界地理を絡めていくアイディア、バカミスすれすれの着想は実現の可能性はさておいて嫌いになれないのではないでしょうか。必然性に甘く、お世辞にも出来が良いわけではありませんが、本格ミステリにケレンを求める読者には好みな作風だと思います。
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