2017.04/04 [Tue]
海野十三『蠅男 名探偵帆村荘六の事件簿(2)』
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★★★☆☆
名探偵帆村荘六、再び帰還!科学知識を駆使した奇想天外なミステリを描いた、日本SFの先駆者と称される海野十三。鬼才が生み出した名探偵が活躍する推理譚から、傑作集第二弾を精選して贈る。密室を自由に出入りし残虐な殺人を繰り返す、稀代の怪人との対決を描く代表作「蠅男」。在原業平の句にちなんだ奇妙な館に潜む恐るべき秘密を暴く「千早館の迷路」など、五編を収録。
「名探偵帆村荘六の事件簿」第2作。
一昨年、創元推理文庫から刊行された『獏鸚』『火葬国風景』が好評を博したとのことで第2弾が発売されました。前作で新本格ばりの着眼点と先見性に感心しすっかり魅了されてしまったので迷わず購入。「帆村」ものの長編「蠅男」に加え、短編「暗号数字」「街の探偵」「千早館の迷路」「断層顔」の4作が収められた5本構成です。また、ふた月遅れでノンシリーズ傑作選の第2弾『深夜の市長』もリリースされています。
今巻の目玉ともいえる表題作は密室状況をものともせず、捜査陣の目を掻い潜って殺人を続ける怪人・蠅男との対決を描いた長編で、全体のおよそ2/3を占めます。不可能状況や密室殺人といったキャッチーな要素が目を引きますが、実際には昭和の暗闇を跳梁する奇人と名探偵との追いつ追われつな大捕り物が主体であり、江戸川乱歩の「少年探偵」シリーズに近しいテイストです。在原業平の符合に彩られた館もの「千早館の迷路」もやはり同様で、全体を通して本格というよりもレトロな香りを残した怪奇SFといった風合いが色濃いです。
ミステリファンとして注目したいのは虫食い算の数式を機械的に解いていく暗号ものの「暗号数字」でしょう。割り算の数式に空いた穴を埋めていく作業もさることながらその裏に隠された真の目的にはしてやられたと表現するのがぴったりで、魅力的な暗号に熱中しすぎるほど足元を掬われます。伏線も申し分なく、今巻収録作の中ではベストです。
ひとつ苦言を述べるのなら、メイン長編扱いされる「蠅男」の中核部分が前作『獏鸚』収録の某短編と被ってるのが残念でした。傑作選という性質上、作者の代表作や生前興味を抱いていた主題を少しでも読者に紹介できるよう吟味するのはむしろ当然の考えとはいえ、顔となる長編に既視感があるのはせっかくの機会が勿体ないなと思わないこともありません。そこはもう少し配慮して調整して欲しかったです。
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